高金氏本人については、現時点で今回新たに浮上した国家安全法違反の疑いについて起訴されたわけではない。したがって、張氏を中心とする新たな捜査と高金氏本人の刑事責任については、現段階では明確に区別して見る必要がある。
それでも、国会事務所の元主任が電子監視下から逃亡し、その直後に現職秘書らの捜査、さらに中国資金をめぐる国家安全法違反の疑いまで浮上したことで、高金氏をめぐる事件は単なる汚職事件を超えて、重大な政治・安全保障問題へと発展する可能性が出てきた。
今後は、10月27日に予定される高金氏本人の出廷と公判手続きに加え、逃亡した張氏の身柄確保、逃亡を支援した人物の有無、そして中国側からの資金提供をめぐる捜査がどこまで広がるのかが大きな焦点となる。
歌手・女優から盤石な支持基盤を持つ政治家へ
そもそも高金素梅氏とは、どのような政治家なのだろうか。
政治家へ転身する前は、「金素梅」の名で1980年代から90年代にかけて歌手や女優として人気を集めた。映画監督アン・リー氏の代表作『ウェディング・バンケット』ではヒロインを演じるなど、国際的にも知られる存在となった。
母親は台湾先住民族のタイヤル族、父親は戦後に中国大陸から台湾へ渡った外省人である。その後、自らの先住民族としてのルーツを重視するようになり、母親の姓である「高」を冠した「高金素梅」へ改名した。
01年の立法委員選挙では山地先住民族選挙区から出馬して初当選を果たした。その後は先住民族の権利拡大や福祉向上を主要な政策に掲げ、24年の選挙まで連続7期当選を重ねるなど、台湾政界でも屈指のキャリアを持つ政治家となっている。
先住民族社会における知名度と支持基盤は強固とされ、先住民族のアイデンティティーや伝統文化の保護、経済支援などを訴え続けてきた。また、日本の靖国神社に合祀されている台湾出身者(高砂義勇隊など)の合祀取り消しを求める活動を主導したことでも知られている。
台湾政治における立ち位置を見ると、政党には所属していないものの、政治的スタンスは一貫して最大野党の中国国民党(国民党)に近いとみられている。与党・民進党の政策や、いわゆる台湾独立志向の路線には批判的な姿勢を示す一方、中国との交流や対話を重視する立場を取ってきた。そのため、中国側からも台湾先住民族を代表する政治家の1人として扱われることが多かったのだ。
国民党や台湾民衆党(民衆党)の議員からは、民進党政権に対抗する重要な協力相手であり、論戦力の高いベテラン議員として評価されることが多い。一方で、民進党などからは、中国寄りの言動や、中国側の宣伝活動に利用されているのではないかとの批判を受けることも少なくない。


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