例えば、スーパーの食品売り場や混み合った電車の中で、子どもが何かの理由で激しく癇癪(かんしゃく)を起こして泣き叫んでいる場面を思い浮かべてみてください。
一般的な感覚を持った親であれば「うるさいな」「早く泣き止んでくれないかな」「周りの目があって恥ずかしい」とイライラしたり、焦ったりするでしょう。
しかし、HSPやエンパスといった敏感な気質を持つママの脳と体の中では、それとはまったく次元の違う、もっと深刻で複雑な現象が起きています。
ただ「うるさいな」と思うだけでなく、子どもの「悲しい」「悔しい」「どうして自分の気持ちをわかってくれないの」という激しい感情の波が、脳内のミラーニューロンシステムを通じて、まるで自分自身の感情であるかのように自分の中にどっと流れ込みます。
さらにそれと同時に、周囲の人々が発する「うるさいな」「ちゃんと親がしつけろよ」という冷たい視線や非難の空気、舌打ちの音までも、乾いたスポンジのように全身で吸収してしまいます。
子どもの圧倒的な感情、他人のイライラした感情、そして自分自身の焦り。これら複数の感情の波に一気に吞み込まれ、ママの脳と体は一瞬でオーバーヒート(発火)してしまいます。
このような極限状態に日々さらされていれば、心身のエネルギーが枯渇してしまうのは当然のことなのです。
HSPやエンパスである共感力の高い優しいママは、子どもの苦しむ姿を見て自分も苦しみながらも、「私が我慢すればうまくいく」「私がこの子を普通に育て上げなければ」と相手を優先するあまり、自分の心が限界を迎え、突然子どもや相手に冷たい感情を抱いてしまうことがあります。
そして「こんなことを思うなんて、私はダメな母親だ」「ケアをする資格がない」と激しい自己嫌悪に陥ったりします。これが、HSPやエンパスが陥りやすい共感疲れのジレンマです。
しかし、他人をケアするためには、まず何よりも「あなた自身の心」をケアすることが不可欠です。あなたが苦しいのは、愛情が足りないからではなく、あなたの優しく精巧なセンサーが他人の感情に過剰同調しすぎてオーバーヒート(発火)しているだけなのです。
自分の気質を認め、自分自身の感情に共感と思いやりを向けて受け入れてあげることこそが、この苦しいジレンマから抜け出す唯一の道なのです。
優しい人ほど陥りやすい「共感疲れのジレンマ」
また、対人援助職の現場でも同様のジレンマが起きています。あるベテラン介護士は、認知症の患者さんが抱える混乱や悲哀を、HSPやエンパスの高い共感力によって無意識に自分の感情のように引き受けてしまっていました。
患者さんが痛みを訴えれば、彼女自身の体まで痛む感覚に襲われるのです。これは相手の苦しみや悲しみにミラーニューロンシステムが過剰に同調し、過剰受信するために起こります。
彼女は「私が救わなければ」と身を粉にして働き続けましたが、次第に強い倦怠感に悩まされるようになりました。そしてある日突然、愛情を注いでいた患者さんに対して冷たく無関心な感情を抱く自分に気づき、激しい自己嫌悪に陥って職場を去ったのです。
「この人のために頑張ろう」「私が我慢すればうまくいく」と相手を優先するあまり、自分自身の心と体のエネルギーが限界を迎え、突然子どもやケアする相手に冷たい感情や苦痛を抱いてしまう。
そして「こんなことを思うなんて、私はダメな人間だ」と激しく自分を責める。これが、優しい人ほど陥りやすい共感的苦痛による「共感疲れのジレンマ」なのです。



※ログイン後、コメント入力が可能です。