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【独占】企業は「海外経験がない学生は採用しない」という強いシグナルを出すべきだ…新浪剛史が訴える日本の深刻な危機

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(撮影:今井康一)

2025年9月にサントリーホールディングス会長、経済同友会代表幹事を辞任した新浪剛史氏。違法サプリメント輸入の疑いで福岡県警が家宅捜索。その騒動を受けての辞任ではあったが、新浪氏は一貫して無実を主張。26年4月に書類送検されたが、5月には不起訴処分となった。疑いは晴れたわけだ。

同氏は多くの要職を離れて時間の余裕ができたことを、前向きに捉えている。この1年は、欧米の要人と直接議論をしながら、「地政学リスクが高まる時代におけるリーダーの条件」について思索を巡らせてきたという。それはいったいどういうものか。地経学研究所で経営主幹を務める塩野誠氏(経営共創基盤CEO)との特別対談を通じて明らかにしていこう。

経営戦略の起点は「地政学」にある

ーー国際情勢が不透明感を増す中で、企業経営における地政学リスクへの感度向上が、CEOやCOOなどトップマネジメントにとって最重要課題となっています。近年の環境変化と、企業経営者が向き合うべき本質とは?

新浪:グローバル経営において最も大きく変わった点は、CEOが戦略を立てる起点として地政学を一番重要な課題として位置付けなければならなくなったことだ。

従来の経営理論では、まず自社の成長戦略や競合分析といった戦略を考え、地政学リスクは後から考慮するリスク要素の1つにすぎなかった。しかし今は違う。世界で何が起こるかという地政学シナリオが最初にあり、それに基づいて複数のシナリオを描き、手を打っていくことがストラテジーの前提となった。

私はサントリーホールディングス社長として、グローバルでの意思決定の精度を上げるために「サントリー・グローバルアドバイザリー・カウンシル(SGAC)」を設立。私のネットワークを生かして、アメリカ大統領補佐官を務めたジェイク・サリバン氏や国際政治学者のイアン・ブレマー氏、日本からも国家安全保障を担当された方々をアドバイザーに招聘し、徹底的な議論を重ねてきた。グローバルな知見を得るには一定のコストがかかるが、CEOが未来のリスクとチャンスを洞察し、ビジョンと戦略を策定するためには不可欠な投資だ。

悲しいかな、多くの日本企業はこうした「地政学を前提とした戦略策定」が非常に弱い。「予測不可能」と諦めるのではなく、地政学のシナリオを複数を持ち、それぞれにオプションを用意する姿勢が求められている。

塩野:そのとおりだと思う。今や経営戦略は、国際政治や地政学の「従属変数」。経営の主従関係が完全に逆転している。

一方で、多くの企業経営者は「どこから手を着ければいいのか分からない」というのが本音かもしれない。

新浪剛史(にいなみ たけし) 慶応大学経済学部卒業、米ハーバード大学経営大学院修了(MBA)。1981年に三菱商事へ入社。その後、ローソン、サントリーホールディングスで経営トップとしてリーダーシップを発揮。経済同友会代表幹事も務めた。現在は、世界主要国の要人が参加する三極委員会のアジア太平洋委員会委員長(撮影:今井康一)

新浪: まずは臆せずに、国際的な議論の場に飛び込むことだ。私は「三極委員会(トライラテラル・コミッション)」や、塩野さんも在籍している「地経学研究所」の活動に深く関わっているが、こうしたラウンドテーブルやイベントに参加するだけでも大きな衝撃を受けるはずだ。

議論の多くは英語で行われ、欧米やアジアの政治家、経営者、政策立案者たちがリアルな本音で激論を交わしている。その場に身を置き、世界動向の最前線を直接肌で感じる体験が何より重要だ。「英語が完璧でないから」「ハードルが高いから」と臆していたら、変化のスピードに置いていかれてしまう。

これからの日本企業は明確に「Kシェイプ(二極化)」を描く。首を突っ込んで地政学の視点を取り入れる企業は成長の波(上向きのベクトル)に乗り、内に閉じこもる企業は衰退(下向きのベクトル)へと向かう。自社をどちらの軌道に乗せるかは、CEOのリーダーシップ次第だ。

塩野誠(しおの まこと) 慶応大学法学部卒業、米ワシントン大学ロースクール修了(法学修士)。シティバンク、ゴールドマン・サックス証券、ベイン・アンド・カンパニー、ライブドアなどを経て、経営共創基盤(IGPI)の共同経営者に。2025年12月に代表取締役CEOに就任。地経学研究所では、経営主幹・新興技術グループ長。グローバル企業の地政学リスクについてアドバイスを行っている(撮影:今井康一)

塩野:CEOの意識変革と同時に、ミドルマネジメントや若い世代をどのようにグローバルに接続していくかも大きな課題だ。20年前には28%ほどだった日本人のパスポート保有率は今では17〜18%まで低下しており、若者の内向き志向が懸念されている。

新浪:だからこそ、トップダウンでのカルチャー改革が必要になる。CEOが地政学の重要性を発信し続け、組織全体にその視点を浸透させなければならない。

例えばサントリーでも、米ニューヨークなどで開催するSGACや会議に国内外の若手・中堅の社員を巻き込み、トップレベルの議論を体感させる場をつくった。円安やインフレもあって飛行機代や宿泊費が高騰しており、海外出向や現地での体験にはコストがかかる。しかし、これは「経費」ではなく将来への「投資」だ。人を育てる投資をケチると、少なくとも2〜3年で決定的な差となって企業に跳ね返ってくる。

塩野:若者の内向き志向に関しては、MBA留学の減少なども指摘されている。

新浪:由々しき問題だ。大学は最低1年間の海外留学・交換留学プログラムを必修化するくらいの枠組みをつくったほうがいい。企業も「最低1年の海外経験がなければ採用しない」といった強いシグナルを出すべきだ。私がいた三菱商事のような総合商社でも、そうした国際性を求める姿勢を明確にすることで、学生のモチベーションを引き出している。

制度として強制的に外へ押し出す仕組みを作ることが、結果として本人の成長につながる。ビジネスや官庁といった実務の現場が「どのような人材を求めているか」を明確にし、大学に働きかけていく主導権を持つべきだろう。

東京大学が英語だけで学位を取得できる学部を新設するといった試みは素晴らしい改革だが、一方で日本の若者は一度日本を離れ、異なるカルチャーの中で揉まれる体験こそが今最も必要とされているのではないか。

東洋経済オンライン(有料会員版)〈新浪剛史×塩野誠 特別対談前編〉地政学なき経営は淘汰される! 日本にかつての興銀のような存在が必要なワケでは、新浪氏が「会長や投資家として若いCEOを支援する立場」から関与していくことを目指しているビジネス領域、新しいビジネスを根付かせるための提言を詳しく報じている。

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