この法則の、もっともわかりやすい例を紹介しましょう。
極寒の地で暮らすイヌイットという民族は、雪の種類を20通りにも呼び分けていると言われています。きめ細かい雪は「プカク」、吹雪は「ペエヘトク」、雪の塊は「アウヴェク」……。
イヌイットは「雪」を20通りに呼び分ける
僕たちにとっては、雪は「雪」です。でも、雪の上で生きるか死ぬかが決まる人々にとって、「今日の雪がどんな雪か」は死活問題です。だからこそ、20もの言葉で見分ける必要がありました。
言葉の数は、その人たちの生活の「真剣度」を映し出す鏡なのです。
ここまでの話を踏まえると、「翻訳機があるから英語はいらない」という話の、どこが足りないのかが見えてくると思います。
翻訳機は、「milky way」を「天の河」と訳してくれます。でも、「なぜ彼らには牛乳の道に見えるのか」までは教えてくれません。
相手が何を大事にしているのか。何に怒り、何に喜ぶのか。その感覚の背景にどんな暮らしがあるのか。そこまでわかって、初めて本当の意味で「相手の言っていることがわかる」状態になるのです。
これは、ビジネスでも同じです。翻訳機越しの商談で、言葉の意味は通じたとしても、相手の文化の「考え方」を知らなければ、交渉の空気を読み違えます。逆に、相手の言語に埋め込まれた価値観まで理解していれば、「この人たちはなぜこういう決断をするのか」が手に取るようにわかる。
グローバル化が進んで翻訳機が賢くなる時代だからこそ、「意味」は機械に任せて、人間は「考え方」を学ぶ側に回る。そのための道具として、語学の価値はむしろ上がっていると、僕は思っています。


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