毎週、東京と九州を往復し、母親の通院に付き添いつつ入院先を探す。やっと母親の入院先は決まったものの、夏から秋にかけての数カ月間、ハードな生活を続けているうちに、彼女は疲れ果ててしまいました。仕事に対する意欲は低下し、「こんな自分には、お客様に喜んでいただくような仕事はできない」と、すっかり自信を失ってしまったのだといいます。
彼女のケースは、絵に描いたような、母親由来の「もらいうつ」でした。
彼女自身は、精神科で治療を受けた結果、だいぶ元気を取り戻しました。それで復職を考え出したのです。しかし、接客に対して自信を失ってしまったので、主治医にお願いして「接客以外の仕事なら復職可能」と書いてもらった。それがことの真相でした。
彼女と面談していると、彼女はまだ十分に治ってはいないことがわかりました。
私は、接客の専門職として採用された彼女が、接客以外の仕事で復職することの難しさを説明し、まず焦らずに自分自身のうつ病を完全に治すことが先決で、復職はそれから考えようとアドバイスしました。人事担当者には彼女と話した内容を伝え、復職診断書はいったん取り下げてもらうことにしたのでした。
うつ病原因を1つに限定するのはNG
私たち精神科医がうつ病の治療を行う場合、「うつ病を引き起こした犯人さがしに固執してはいけない」という大原則があります。
なぜ犯人さがしに固執してはいけないのか。それは、うつ病はその人に生じるさまざまな出来事が、その人の気持ちに影響を与え合った結果として起きる病気なので、「誰のせいか」と原因や犯人を特定しようとする試みは、回復の遅れや二次被害を招くおそれがあるからです。
例えば、いま紹介した接客の専門職として働いていた女性の場合でいえば、うつ病になった母親を十分にサポートできているのか、母親のうつ病はいつ回復するのか、母親のサポートと自身の仕事の両立はできるのかといった心理的な負担に加え、毎週実家に帰ることによる身体的負担も重なっており、原因を1つに特定することはできないのです。


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