大畑駅をスイッチバックで越えると列車は最大30.3‰という急勾配の矢岳越えに挑む。勾配を進むと矢岳駅が見えてくるが、この駅は肥薩線最高所、標高537mのサミットの駅だ。駅前にはかつて奮闘したD51形が保存されている「SL展示館」があり、観光列車では見学の停車時間があった。
矢岳からは熊本・宮崎県境を経て勾配を下りスイッチバックの真幸駅に到着する。ホームからはスケールの大きいスイッチバックの全容を望むことができる。真幸駅と次の吉松駅の間では宮崎・鹿児島県境を通過して、吉都線が分岐する鉄道の要衝、吉松駅に到着する。ここから肥薩線の終点、隼人までの間は2025年8月の豪雨で被災し運休していたが、今年2026年7月に復旧し、運転が再開されたのは喜ばしいことだ。
「山野線」C56形の思い出
吉松はかつて機関区があり蒸気機関車の煙ただよう駅だった。駅前にはC55形が保存されている。かつては鉄道の町として発展したことを感じさせる「名物グルメ」もあり、駅前通りには創業百年を誇った「汽笛まんじゅう」の菓子店が客車の店構えで営業していた。もう1つは駅弁である。観光列車の運行に合わせ、素朴な幕の内弁当を復刻してホームで販売していた。
吉松を出て霧島の山々を望みながら山間を進み、川内川を渡ると栗野に到着。ここはかつて山野線(水俣―栗野間、1988年廃止)との分岐駅で、C56形が貨物列車を引いて活躍していたことが思い出される。駅の裏手には栗野岳からの伏流水が湧く名水百選「丸池湧水」があり、列車は名水を車窓に望みさらに山中への勾配を進む。

