企業価値は将来キャッシュフローの現在価値と定義されるので、言うまでもなくキャッシュフローは重要だ。
しかしPEファンドでは、キャッシュフローが債務返済の原資になるため(負債の減少分だけ株主資本価値は増加するため)、事業から稼ぎ出されるキャッシュフローの安定性が一層重要になる。
つまり、PEファンドは単に「成長しそうな会社」を買うのではなく、「借金を返せる会社」を買う。目覚ましい成長はなくても毎年確実にキャッシュフローを生む企業をターゲットにすることに合理性が高いということになる。
したがって、PEファンドが好む事業の主な条件として、次のように整理できるだろう。
すなわち、顧客が簡単に離れにくく、一定の価格決定力があるため売上や利益の予測可能性が高いこと、景気変動の影響を受けにくいこと、大規模な設備投資を必要としないこと、こうして結果的に継続的で安定したキャッシュフローを生み出す事業はPEファンドの大好物となる。
生活密着事業を狙う構造的理由とモデル濫用の問題
このように考えると、本書が指摘する、医療、住宅、刑務所、公共サービスなど人々が容易には利用をやめられない事業をPEファンドが意図的に狙っているという指摘は、実はPEファンドのビジネスモデルから自然に導かれる。
これらの事業は、顧客数が多く、需要が継続的で、利用者が他の事業者へ簡単に移れず、さらには公的保険や政府支出が収入源となっていれば、支払いの確実性も高い。
たしかにPEファンドが日常生活に入り込んでいるという略奪性と恐怖はうなずけるが、しかし、それは必ずしも最初から弱者を狙っているからではない。
問題は、むしろその先にある。需要が安定していることと、顧客が逃げられないことは表裏一体だ。安定したキャッシュフローを見込んで投資した後、乗り換えの難しい顧客に値上げを受け入れさせ、人員や品質への支出を削減すれば、ファンドの収益はさらに高まる。
したがって批判されるべきは、生活に密着した事業への投資それ自体ではなく、その安定性や顧客の退出困難性をPEファンドがどのように利用したかである。本書を読む際には、PEファンドのビジネスモデルそのものと、その濫用とを区別しておく必要があるだろう。


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