2025年10月の週末、群馬県みなかみ町の水上温泉街に、普段では考えられない光景が出現した。廃墟の骨格がむき出しになった建物の中を、人が列をなして歩いていたのだ。鉄骨とコンクリートがむき出しの空間に秋の陽光が差し込み、足元には利根川の渓流が流れる。「ミナカミ・ミライ・マルシェ -水上温泉廃墟再生ストーリーズ2025-」の一プログラムとして行われた「旧一葉亭・廃墟再生内部ツアー」だ。
前編で見てきたとおり、かつて水上温泉のランドマークだったこの旧一葉亭は、2019年の閉業以来、廃墟のまま放置されてきた。その廃墟がいま、「壊す」のでも「そのまま放置する」のでもない、前例のない手法で蘇ろうとしている。なぜ、みなかみ町はこの道を選んだのか。
「壊せない廃墟」が抱える問題
旧一葉亭が抱えていた問題は、廃墟としての見た目だけではなかった。巨大な規模、法的な制約、そして莫大な解体費用という三重の壁が、この建物を身動きできなくしていた。
建物は増改築を繰り返した結果、最大7棟・延床面積約1万8000㎡(約5400坪)にまで膨れ上がっていた。本館、新本館、第一別館、第二別館、エネルギーセンター、新館、遊技場――増築のたびに棟数を重ね、いつしか一つのホテルが小さな街のような規模になっていた。
また、建物の東側は利根川の河川区域に指定されており、法的な制約から単純な新築建て替えはできない。


※ログイン後、コメント入力が可能です。