廃墟が低層化されてできた「空白」は、2023年10月の公募開始を経て、2024年4月に活用事業者として選定された広島県尾道市の株式会社Stapleにより、新たな街へと生まれ変わる計画だ。2025年5月28日の事業概要説明会では、宿泊棟・温浴施設のほか、レストランやショップ、キッズパークなどを併設し、2028年の開業を目指す方針が示された。
株式会社Staple代表の岡雄大氏は、みなかみを選んだ理由として、山や川と共生する自然文化の深さと、歩いて楽しめる街の密度を挙げる。
70年ぶりに戻ってきた山と川の風景の上に、いま新しい街の姿が重なろうとしていた。
「点」から「線」へ、そして全国のモデルへ
旧一葉亭の再生は、一棟の廃墟を蘇らせるだけの話ではない。
再生建築研究所の神本氏は、この取り組みが持つ、より普遍的な意味についてこう語る。
「日本の既存ストックは土地の値段から建物の解体費を引いたものが価値になるのが実情で、建物は“負の遺産”だと言われている。けれど、その負の遺産があったからこそ、Stapleさんのような事業者が手を挙げてくれた。負の遺産が“資産”に転換したということです」
神本氏は、単なる改修ではなく「削ることで価値を高める」この再生のあり方を、多くの人に伝えたいと語る。
同様の課題を抱える温泉街は、隣県・栃木県の鬼怒川温泉をはじめ、全国に数えきれないほど存在する。神本氏自身、「廃墟再生だけが答えではない」としながらも、「一つのマスターピースになる」と語った。
旧一葉亭の再生プロジェクトが示すのは、廃墟問題に悩む地方温泉街の「再生モデル」としての可能性だ。国土交通省観光庁の「廃屋撤去・再生による地方温泉地等のまちづくり支援事業」(令和8年度予算10億円、補助率2/3)の予算要求資料には、水上温泉街の事例がそのまま「再生の例」として掲載されている。みなかみの取り組みが、この国の制度の土台になったのだ。
2026年には、水上温泉街へのアクセス口となる新幹線駅・上毛高原駅前に、北関東初のアーバンデザインセンター「UDCみなかみ」が発足し、産官学金の連携をエリア全体に広げている。こうして「点」から「線」へと歩みを進めるこの温泉街は、この先どんな未来を描いていくのか。その挑戦は、全国で衰退に悩む温泉街だけでなく、人口減少とともに増え続ける空き家・空きビルという、日本全体が抱える“建築ストック”の問題にも、一つの解を示していけるかもしれない。
長年動かせなかった廃墟が、ついに動き出した。この一歩は、全国のまちの未来をも少しずつ形づくっていきそうだ。


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