7月29日、PayPay証券が1本のプレスリリースを発表した。6月末時点の口座数が182万になったという、一見すると地味な発表だ。だが、この数字には意味がある。口座数で老舗の松井証券を抜き、ネット証券で5位に躍り出たのだ。
PayPay証券の口座数は、昨年3月から今年6月までの間に45万口座増えた。ネット証券ではSBIと楽天に次ぐ増加数だ。急成長を牽引したのは、3月に米ナスダック市場に上場したPayPayのIPO(新規株式公開)。このとき売り出された米国預託株式(ADS)を、PayPay証券がネット系として唯一販売を受託したため、個人投資家が殺到。IPO期間中、1日に1.4万口座が開設されたこともあった。

海外IPO銘柄であるPayPayの株式を日本の個人に販売するに当たって、PayPay証券は「POWL(Public Offering Without Listing、上場なき公募)」という仕組みを活用した。国内では12年ぶり、ネット証券では初となるPOWLは、どのようにして行われたのか。
「ほぼ未経験」だったIPO
「前例のないチャレンジングな案件だったな、と今でも思う」。PayPay証券の栗尾圭一郎社長は、当時の挑戦をこう振り返る。
PayPay証券がこのIPOに関わるきっかけとなったのは、幹事団にゴールドマン・サックスやJPモルガンと並んで、米国みずほ証券が名を連ねたことだ。みずほ証券は、PayPay証券の大株主であり、両者は日頃から業務上の接点があった。
PayPayは機関投資家だけでなく、決済サービスの利用者である個人にも、株式の一部を売り出したい意向を示していた。そこで、対面ではみずほ証券が個人に販売する傍ら、ネットでの販売をPayPay証券に委託する案が持ち上がった。
PayPayアプリにはPayPay証券がミニアプリとして組み込まれており、決済と投資を同じアプリで完結できる。さらにPayPay証券は、株数ではなく金額を指定して株式を購入できる。PayPayのIPOを通じてこうした利便性を体験してもらえれば、PayPay利用者に株式投資を身近に感じてもらえると考えた。
ところが、肝心のPayPay証券にはIPO銘柄の取り扱い経験がほとんどなかった。前身のOne Tap BUY(ワンタップバイ)時代の2018年に、ソフトバンク株を販売したのみ。当時を知る従業員は社内にも少なく、事実上ゼロからのスタートだった。
PayPayの上場先が、東京証券取引所ではなくナスダック市場であることも事情を複雑にした。さまざまなスキームを検討し、最後に残ったのがPOWLだ。国内では14年を最後に利用されておらず、ましてネット証券がPOWLを利用した前例もない。PayPay証券の社内のみならず、みずほ証券からも「本当にできるのか」と実現性を不安視する声が上がった。
だが、PayPay証券の栗尾社長は「スマホ1つで海の向こうの大型IPOにアクセスできることは、画期的なパラダイムシフトだ。われわれが掲げている『投資の民主化』を果たす機会」と捉えた。規制当局や業界団体にも照会し、「問題なし」と判断。海外IPO銘柄をネットで販売する、前代未聞の試みが始まった。
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