AI時代に急増する電力需要に応えるため、東マレーシア・サラワク州の再生可能エネルギーに国際的な注目が集まっている。
事実、サラワクの電力料金は群を抜いて安い。産業用電力料金は1キロワット時あたり約24〜28セン(約9〜11円)で、これは日本の産業用電力のおよそ3分の1の値段だ。マレーシア国内と比較しても、マレーシア半島部が1キロワット時あたり約38セン(主に石炭火力)、同じボルネオ島のサバ州が約37.6セン(主にガス火力)であるのに対して安い。。しかもその7割が水力発電なのだ(出典:エネルギー分析機関Ember)。
またデータセンターや工場のような大口顧客には、この料金よりさらに安い個別の電力購入契約(PPA)価格が適用されるため、大企業が実際に支払う電力コストは、この数字をさらに下回る可能性が高い。
これまで筆者が報じた記事では、サラワク州の水力由来の電力の圧倒的な低価格がAIデータセンターや半導体工場を惹きつける最大の武器となっている一方で、水力発電のためのダム建設によって先住民族「ダヤック」たちが生活の拠点やアイデンティティを失ってきた歴史と現状を見てきた。
しかしNGO「SAVE Rivers(セーブ・リバーズ)」代表のピーター・カラン氏はダム建設の強制移住や補償などの問題に対して「バタン・アイ(最初のダム)の時代から、現場で起こることは何も変わっていない」と語る。
新たに進む、サラワクのメガ水力発電計画
現地の発電事業者であるサラワク・エナジーは今年1月、トゥトー、ブラガ、ダナム、バルイ、ガートの5河川流域での『カスケード式電源(CPS)』開発に向けたRFP(提案募集)を発表。提案の締切は今月末で、すでに日本・中国・韓国の企業を含む28社が参加登録している。30年までに1万MWを達成するというサラワク州政府の公式目標を目指すかたちだ。
しかし計画される新規ダムが移住を伴うものなのかどうか、それすら該当地区のコミュニティには知らされていない。ブルーノ・マンサー基金(BMF)のタニャ・マイヤー氏は、26年4月にトゥトー川流域のコミュニティを訪ねた。
「住民はほとんど何も知らされていませんでした。『このあたりのどこかにダムが建つらしい』『開発だから自分たちも恩恵を受けるはずだ』、それだけでした」(マイヤー氏)
サラワク・エナジーが26年1月に発行した公式文書(TOR)は、入札企業に対し「地域コミュニティとの関わり、現地訪問、いかなる現地交流も禁止する」と明記している(条項2.17)。一方で同じ文書は、先住民への「自由意思による事前の情報に基づく同意(FPIC)」の確保を求めている(条項4.35)。マイヤー氏はコミュニティとともに、FPICの原則に基づいた15の質問を4月末にサラワク・エナジー宛に送ったが、返事はなかったという。
「これらの質問は、本来なら何かが計画される前、それか最低でも8月31日に終了するフィージビリティスタディ(F/S)の最後までには説明されているべき内容です。しかし今日に至るまで、返答はありません。もし仮に移住がないとしても、ダムが川の流れを変えてしまえば、地域の豊かな生態系は変わってしまう可能性が高い。また輸送路としての川へのアクセスが失われれば、人々はやがて生きていけなくなります。そうなれば、住民はどのみち去るしかなくなるでしょう」(マイヤー氏)
バクン・ダム建設の影響を直接受けたベラガ地域出身のケニャ族の法律家で、先住民の土地権利のために法廷で戦い続けてきたマイケル・ジョック氏は、植民地時代から現代まで続く開発の論理をこう表現する。
「開拓者がやってくるときの、Gold(資源)、God(宗教)、Glory(栄光)の『3G』。開発という名のもとで、我々の土地へやって来る。でも先住民が豊かになったという話を、私は一度も聞いたことがありません」(ジョック氏)


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