コト消費は何も言っていないことでのみ存在しており、「モノ消費ではない消費」としてしか定義しえない。このことは、コト消費が他の言葉と比べてもその指し示す対象が曖昧で、また外国語への翻訳が困難であることからも傍証されるでしょう。
他方、日本経済における「財消費からサービス消費へ」という枠組みの堅固さゆえに、「モノ消費ではない消費」というイメージは、私たちの社会においては1970年代以降を境に、非常に強く共有されるものでした。
その曖昧さゆえに「コト消費」は生き残った
その指示対象を確定しえないコト消費は、このイメージに寄生することで、この「ではない」という力点を強調する議論において頻繁に使われることとなります。
「財消費からサービス消費へ」という日本経済のトレンドの推移が確固たるものとなり、消費者購買に関する質・量的変化が見られた1980年代、マーケターたちはこのトレンドを何らかの形で説明しながら、それを具体的な商品開発や販売戦略に取り入れるための方策の提示を迫られました。
その方向性としては様々なものがありましたが――先述した三類型は、奇しくもその後の「モノ消費ではない消費」をめぐる議論の行き着く先のバリエーションを示しています――、その様々な方向性すべてを包含しうる曖昧な言葉であるコト消費は、誰からもプッシュされませんでした。
だが、その曖昧さゆえにコト消費は生き残り、私たちが消費現象に関する説明に困った際に、今もなお持ち出されることとなります。すなわち、現代はモノ消費の時代ではなく、コト消費の時代なのである、と。



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