さて、ときは流れ、かつてプラザ合意後は円高に泣いた日本経済は、今では円安に苦しんでいる。日米金利差はなおも健在だし、「デジタル赤字」などの構造的円安要因もある。加えて今年はホルムズ海峡封鎖で石油価格が上昇に転じ、貿易収支の悪化が円安に追い打ちをかけそうだ。7月にはドル円レートが164円に接近したが、そのドルは対ユーロや人民元などで減価している。ゆえに実質実効レート、すなわち通貨としての実力を見た場合、円の実力は1970年代前半、なんと1ドル=360円時代とほぼ同じ水準にまで低下している。
ところが7月末、唐突に円高が進んで久しぶりに1ドル=150円台に突入した。この円安是正は、なんと日米協調介入の結果であった。さすがにアメリカが基軸通貨ドルを売ることはなく、介入手法は「ユーロ売り/円買い」であり、金額も小さかったようである。それでも日本が単独介入した場合と比べれば、その意味するところははるかに重い。何しろアメリカ政府が、「この水準の円安は認めない」と意思表示してくれたのである。
日米協調の為替介入は、直近では11年3月に起きた東日本大震災後の円高局面(同5月)以来である。「円買い介入」に限れば1998 年以来となる。自然災害や金融危機でもない平時に、なぜアメリカが「円安で困っている」日本を助けてくれるのか。
トランプ大統領は、協調介入を「友情の証」と言っている。「アメリカ・ファースト」を標榜する人の言葉とはとても思われない。そうかと思えば、日本側の三村淳財務官は「これは日米通貨同盟だ」と言っている。本当に信じていいのだろうか?
実はアメリカにとっても円買い介入を手伝うほうが得だった
筆者の読みは、「日米関税交渉」が効いたのではないか、というものである。「トランプ関税」を値引きする代償として、日本は総額5500億ドルの対米投資を約束している。アメリカ側はこの合意を関税交渉の成果として喧伝しているし、何よりトランプ大統領自身がディールに満足している。だからよくこんな風に言う。「日本はわれわれによくしてくれている」と。「日本は同盟国だから」という言葉は、トランプ氏の辞書にはないのである。
これ以上の円安が進行すると、対米投資の採算や資金調達の条件が確実に悪化するだろう。日米のディールを守るためにも、ここは円買い介入を手伝うほうがアメリカにとって得ではないか。なにしろ 5500億ドルの総枠のうち、決まったのはまだ 1090億ドルに過ぎない。残り5分の4の対米投資は、トランプ大統領から見れば中間選挙でも使える貴重な「タマ」になりうるのである。
もちろん日米関税合意には、この手の「密約」まで入っていたわけではあるまい。ただし関税合意のお陰で、円相場の安定がアメリカの利益になった、という見方はできる。何より「チーム赤沢」の交渉メンバーには三村淳財務官が入っていた。上記は比較的無理のない想定と言えるのではないだろうか。


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