台湾で社会現象となり、「台湾版エミー賞」とも呼ばれる金鐘賞で5部門を受賞した歴史ドラマが、動画配信U-NEXTで8月15日から配信され、日本でも視聴できるようになった。それが『波の音色』(原題:『聽海湧(Three Tears in Borneo)』)である。
このドラマの舞台は第2次世界大戦末期、日本軍が占領した当時のイギリス領北ボルネオ(現在のマレーシア・サバ州)。主人公は日本軍が運営する捕虜収容所で連合軍捕虜の監視に従事した、台湾人の青年たちである。
台湾人捕虜監視員とは、日本統治下の台湾で日本軍の軍属として採用され、連合軍捕虜の監視業務に従事した人々を指す。彼らは日本語教育を受け、日本臣民として育ち、日本軍の命令体系のなかで軍務に服した。しかし、その多くは下級軍属であり、作戦や捕虜政策を決定する立場にはなかった。
植民地支配の被害者であり、戦争加害者でもある複雑さの問い
日本の敗戦後、連合国によるBC級戦犯裁判では、日本軍将校だけでなく、多くの台湾人捕虜監視員も戦争犯罪の責任を問われることとなる。終戦で彼らは敗戦国側の日本人でも戦勝国側の中国人でもない曖昧な存在として軍事裁判に立たされる。植民地支配の被害者であると同時に、戦争犯罪に関与した加害者でもあった。
この「被害」と「加害」が1人の人間の中に同時に存在するという歴史の複雑さが、この作品が私たちに投げかける最大の問いである。
台湾人のBC級戦犯をめぐる人数については研究によって若干数字が異なるが、近年の台湾の研究では、190名が有罪判決を受け、そのうち21名が死刑となったと整理されている。彼らの多くは、命令を下す立場ではなく、それを実行する末端の軍属でありながら、戦争犯罪の責任を負わされた。
『波の音色』は、こうした歴史的事実をもとに制作されたドラマである。制作チームは5年以上にわたり台湾、マレーシア、オーストラリアなどで資料調査を行い、複数の研究者の監修も仰ぎながら脚本を完成させた。ただし、主人公は特定の実在人物を描いたものではなく、複数の捕虜監視員の人生をもとに構成された、あくまでもフィクションである。
この作品は単なる戦争ドラマではない。その背景には台湾で民主化以降進められてきた「移行期正義」の理念がある。移行期正義とは、権威主義体制や戦争、植民地支配などによって生じた人権侵害や国家暴力の歴史を検証し、その真実を明らかにすることで、社会の和解を目指す取り組みである。民主化以降の台湾では、国民党独裁期の戒厳令や反体制派を弾圧した白色テロのほか、日本統治期やそれ以前の先住民(台湾原住民族)に対する統治や武力鎮圧を含めた歴史を多面的に見直す試みが続けられてきた。
そこでは、自分たちを単なる被害者として描くのではなく、歴史の中で加害にも関わった可能性を含めて検証しようという姿勢がある。歴史を被害だけ、あるいは加害だけの物語として語るのではなく、自分たちにとって都合の悪い過去も社会全体で共有し、そこから何を学ぶべきか、それを現在や未来にどう生かしていくのかを問い続けるのである。


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