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走り続けることにも、休むことにも正解はない——田中希実が迷い、悩み、それでもスタートラインに立ち続ける現在地

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「なぜ自分は走るのか」——田中希実選手は悩み、迷いながら走り続けているという(写真:朝倉健/アフロスポーツ)
  • 泉 秀一 ノンフィクションライター

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今年『アフリカから来たランナーたち 箱根駅伝のケニア人留学生』で第57回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞したノンフィクションライター、泉秀一さんが、東京五輪の女子1500mで8位入賞を果たすなど、日本の女子中長距離界を牽引してきた田中希実選手を取材した。世界を舞台に走り続けてきた田中選手は今、「なぜ走るのか」という問いの中で揺れている。これまで田中選手への取材を重ねてきた泉さんだからこそ聞き取れた迷いと葛藤、そして、それでも走ることを選び続ける姿を伝える。

迷いながら立ち続けたスタートライン

田中希実はこの半年間、何度もレースへの出場をやめようとしていた。

それでも、走ることをやめなかった。迷いながらも、スタートラインに立ち続けた。

約1年前の2025年9月、国立競技場は大観衆で埋め尽くされていた。世界陸上東京、女子5000m決勝。スタンドから降り注ぐ声援を背に、田中は12位でフィニッシュした。もう一つの出場種目だった1500mは予選10着。準決勝には進めなかった。

世界の12位と聞けば、十分に満足できる結果に聞こえるかもしれない。しかし、4年前に同じ場所で田中は、より世界のトップに近づいていた。だからこそ、今回の自国開催の大舞台を、消化しきれないまま後にすることになった。

田中は、その4年前にも同じ国立競技場を走っている。2021年8月、1年延期されて開催された東京五輪。無観客という異様な静けさの中で行われた1500m決勝で、田中は自身2度目となる4分切りの3分59秒95を記録し、8位入賞を果たした。

女子中距離種目での日本人入賞は、1928年アムステルダム五輪の人見絹枝以来93年ぶりという快挙だった。

長らく、日本の女子中距離界は国際舞台で存在感を示せずにいた。だからこそ、突如として登場した超新星に、テレビ画面越しで応援していた陸上ファンも、そして何より田中自身も未来に期待をした。

しかし4年後、満員の声援に包まれた同じ競技場で、思うような結果を残せなかった。経験を積み、記録も伸ばし、支えてくれるチームも厚みを増したはずなのに、結果を見れば世界との距離は広がっていた。

数字がそれを物語っている。2021年の東京五輪決勝で、田中は3分59秒95を記録して8位に入った。当日は4分を切れば、世界のトップ8に食い込める水準だった。

しかし3年後のパリ五輪、入賞ラインとなる8位のタイムは3分57秒52。その翌年、東京で行われた世界陸上の決勝では3分58秒09だった。もはや4分切りでは世界大会の入賞には届かない。

東京五輪の時点で、ほとんど実力が伯仲していた選手たちにも差をつけられた。

象徴的なのが、田中がベンチマークにしてきたオーストラリアのジェシカ・ハルだ。東京五輪の1500m決勝で、ハルは4分02秒63で11位。8位だった田中が先着していた。

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