さらに、ヤンキーによる漢字当て字文化を全国区にしたのが、ロックンロールバンド「横浜銀蝿」の存在だといわれています。彼らが歌う楽曲の歌詞には「仏恥義理=ブッチギリ」「鞨徒毘=カットビ」「夜露死苦=ヨロシク」「愛羅武勇=アイラブユー」などが見られます。
ただし、不良やヤンキーが使う漢字の選定は、発音が同じであればなんでも良いというわけではありません。そこには反社会性や攻撃性を暗示する文字を用いるという、一定の意味的傾向が見て取れます。
たとえば、「夜露死苦」の「夜」「死」「苦」、「愛羅武勇」の「武」「勇」がこれに当たります。また「露」には「はなかい命」といった言外の意味が含まれているという指摘もあります(※2)。
当て字は万葉仮名にもあった
実のところ、このような漢字による当て字は現代になって始まったものではありません。さかのぼれば、上代日本で用いられた万葉仮名にも「久羅下那州多陀用弊流」=クラゲナスタダヨヘル(海月なす漂へる)のように、和語の一音節に1つの漢字を当てたものがありました。
さらに江戸時代には「四六四九」で「よろしく」を表記した例も見られます(『麁想案文当字揃:そそうあんもんあてじぞろえ)』、1798年 ※3)。
漢字を、その意味を無視して、表音的にのみ用いるというのは、日本だけに限ったことではありません。もとをたどれば、古代中国の「仮借(かしゃ)」がまさにこれに当たります。
「仮借」とはある意味概念を表す単語に対し、その単語と発音が同じか近い別の漢字を借りて当てるという文字運用法で、借りてきた漢字の意味と、表そうとする単語の意味につながりはありません。
たとえば「わたし(たち)」を意味する「我」は、もともとは鉞(まさかり)型の武器「錡(き)」を象った象形文字でした。この文字が古代の中国で「わたし(たち)」を意味する語の発音と近かったことから、「わたし(たち)」を表す文字として転用されました。
冒頭の「夜(よ)羽(う)故(こ)祖(そ)威(い)羅(ら)射(しゃ)威(い)魔(ま)世(せ)」は、まさにこのような漢字の表音性を利用した表記です。


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