さらに不良文化、ヤンキー文化に影響を受けているためか、そこには「夜」「射」「威」「魔」といった反社会性や攻撃性を暗示した文字が用いられています。加えて、キャバクラという夜の店であることから、「夜の蝶」を連想させる「羽」といった文字も並びます。つまり、当て字の選定には、それを用いている集団の社会的位相が関わっているということです。
当て字とそれが用いられる「場」(文体、文脈や内容)に関連を持たせようとするのは、前述の江戸時代の「よろしく=四六四九」にも見られるといいます。
笹原宏之氏は「掛け算で、4×6=24、4×9=36、合わせて60ぺんほど伝言(ことづけ)してくれろということなどが説かれている」と指摘しています(※3)。
さらにさかのぼれば、『万葉集』にも類似の現象が見て取れます。工藤力男氏(※4)は「一つの語を表記するにあたって複数の文字からの選択が可能な場合、語に句に歌に字に、何か関連する字を選ぼうとするのは人情であろう。『連想的用字』と言われる文字法である。かかる例は萬葉集全体に多い」と指摘しています(たとえば「カハ(河)」は「河伯」、「アヲヤギ(青柳)」は「安乎楊木」と書かれており、いずれも表す単語の意味と関連する漢字「河」と「楊木」が選ばれています)。
「画数が多い」=「かっこいい」?
また、「夜羽故祖威羅射威魔世」や「夜露死苦」「愛羅武勇」を用いる集団のなかでは、筆画の多さも重視されています。
「羅」を使いがちなのがその最たるもので、このほか「威」「魔」「露」がこれに当たります。筆画が多い文字を使うと、視覚的に「かっこいい」というほかに、教養をひけらかすという自己顕示にもつながります。
笹原宏之氏は「夜露死苦」の項目で、「概して画数が多くおどろおどろしい字体、宗教や生死、男女関係に関わる字義、不良行為などの社会性を否定する様なマイナスイメージの字義をもつ字が選ばれ、自己顕示欲とのつながりも指摘される」と説いています(※3)。
成人式に関わるニュースのなかで、「横濱」と書かれた自作ののぼりを持参する若者集団が映し出されていました。常用漢字の「浜」ではなくあえて旧字体の「濱」を用いるのは、前に触れた傾向を反映しているようで興味深く感じます。
※2 シャルコ・アンナ『日本語の表記体系における漢字の機能─外国地名・人名の表記を中心として─』、早稲田大学大学院社会科学研究科博士論文、2022年
※3 笹原宏之編『当て字・当て読み漢字表現辞典』、三省堂、2010年
※4 工藤力男「東歌の表記について」、佐竹昭広・山田英雄・工藤力男・大谷雅夫・山崎福之校注『新日本古典文学大系3 萬葉集三』、岩波書店、2022年



※ログイン後、コメント入力が可能です。