しかし、体力のある大企業はともかく、初任給引き上げ競争に追随できる企業ばかりではない。
すでに2026年度入社の新卒を大きく減らした企業もある。従業員2000人規模の中堅製造業の人事担当者はこう語る。
「23年以降、新卒の初任給を引き上げて約26万円までにしました。人事部内ではこれ以上引き上げるのは難しいとの声が大勢でした。いっそ新卒採用をやめて第2新卒やキャリア採用を増やしたらどうかという意見もありました。結果として、初任給はそのままで新卒数を半分に減らし、中途採用を増やすことになりました」
同社は例年新卒30人、中途30人を採用しているが、26年度は新卒をなんとか10人採用し、中途は今年度40人超を採用する予定だ。
初任給高騰が日本の「新卒一括採用」崩壊につながる?
実はこのことが日本の新卒一括採用の崩壊を促す可能性もある。
5年ほど前、従業員5000人超の医療機器メーカーの人事歴35年の人事担当役員に、新卒一括採用をなぜやめられないのか、問いただしたことがある。
役員は即座にこう返した。
「言うまでもなく中途採用に比べてコストが安いからです。同時期に安い人材を多く獲得できます。しかも内部のOJTで育成するので費用も比較的安い。加えて一から育てるのでロイヤリティも高く、定着率も高いのは魅力です」
つまり、新卒の魅力は①コストが安い(初任給など)、②即戦力採用の中途に比べて育成費用はかかるが、日本企業の“お家芸”のOJTによって費用が安価、③ロイヤリティがあり、定着率が高い――の3つである。
しかし今では①のコストについては、初任給だけではなく、就活エージェント、インターンシップの実施、企業説明会、内定者フォローなどの費用も含めると決して安いとはいえない。
しかも③についても、今の新人は会社へのロイヤリティは持ち合わせず、早期離職が増えているともいわれる。
②についてもビジネスモデルの変化などで専門性が高まる中で高スキルの中途には太刀打ちできない。
初任給高騰に始まる新卒採用の抑制は、日本の新卒一括採用崩壊の予兆かもしれない。


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