損をすることへの恐怖は、時に人から自由を奪う。損をしたくないから、無難な選択を重ねる。多くの人に認められる王道を目指して、周囲の人と競争する。気づけば、自分が本当は何を選びたいのかが、わからなくなっている。
安達さんにも、そんな時代があった。道を逸れず、望まれる役割に応えようと、懸命に生きてきた——。そのなかで心のバランスを崩し、彼は損得の物差しの重さを身をもって知った。
いま一番嬉しいことは何かと尋ねると、こう答えた。
「ひとつには、この部屋を認めてもらえることですね。自分の感性や美意識を褒められると、本当の自分を見てもらえたような気持ちになります」
部屋の一角にあるモンステラは、前の持ち主が育てられなくなったものを園芸店が引き取り、育て直されてこの家にやってきた株だ。
「植物には、人間とは違う時間の流れがあって、適切にケアすれば、人の一生を超えて生きるものもあるそうです。それを知って、自分が死んでも残るものはどうやったら作れるだろうって思って。この部屋は、そんな私なりの探求のショーケースなんです。
人間は新しいものを作れますが、古いものは時間の経過が必要で、人間には作り得ない。人間にできるのは、ケアすることだけです。そこに人間の能力を超えた何かがある気がして」
惑星の時間を学んだ人らしい、巨視的なものの見方ではある。だが、それを部屋として「見える化」する必要に迫られたのは、心のバランスを崩してからだった。
25歳で父になり「離婚」、うつと診断された
安達さんは最初から「頭のネジを飛ばす」ことができたわけではない。むしろ規範に忠実な人生を送ってきた。
幼い頃から弓道に打ち込み、父の影響から宇宙科学を志した。それはたやすい道ではなかっただろうが、安達さんは鍛錬を重ねて弓道では錬士の称号を得た。学びの分野でも北海道大学で地球惑星科学を学ぶことができた。

