有料会員登録 東洋経済オンラインとは
ビジネス #エヌビディア旋風の衝撃

〈セガ800万ドル出資の舞台裏〉ジェンスン・フアンCEOが言及しなかった"エヌビディア救済"のもう一人の功労者

23分で読める 有料会員限定
セガとエヌビディアの縁は深い(写真:エヌビディア公式ブログより)
  • 黒川 文雄 ジェミニエンタテインメント代表取締役/ゲーム考古学者

INDEX

2026年7月15日、東京・秋葉原のGiGO秋葉原3号館。都内の最高気温が摂氏34.3度をマークするなか、熱気に満ちたトークイベントが開催された。

それはセガとエヌビディアの交流関係を振り返るもので、エヌビディアの創業者であり、現在もCEOとして活躍するジェンスン・フアン氏が来場するトークイベントだった。当日は、50人の限定抽選で開催されたにも関わらず、抽選にもれた大勢のゲームファンが「革ジャン社長」の出待ちのためGiGO秋葉原3号館前に駆け付けた。

これまでも、フアン氏自身が、セガに対して、過去の協力関係への「謝意」を取材やインタビュー動画で語ることはあったが、今回のように元セガの入交昭一郎氏と、ゲーム開発部署・AM2研(正式名称:第2AM研究開発部)元部長の鈴木裕氏という当時の関係者を招いて行われるのは異例だ。

ゲーム業界に詳しくない読者に対しては説明が必要だろう。

入交氏は1963年に本田技研工業(ホンダ)に入社、二輪車、自動車のエンジン開発を手掛ける。なかでも二輪車へ愛情が強く、二輪車(バイク)レースの統括会社として株式会社ホンダレーシング(HRS)を設立し、初代社長に就任した。その後、ホンダ内で、いくつか要職を経て、本田技研工業副社長に就任するも、惜しまれつつも退任。1994年にセガ(当時はセガ・エンタープライゼス)に副社長として入社した。

入交氏のセガ入社に関しては、1990年前半にセガのコンサルをしていたボストン コンサルティング グループ(以下:BCG)の強い後押しがあった。

当時のセガにはBCGの若手コンサルタントが2名常駐しており、いわゆる課題解決に加えて、発売へのカウントダウンが始まった「セガサターン」の販促計画の立案などに関与していた。入交氏の経歴をみれば戦後の日本をけん引した超有名メーカーの出世頭だ。そんな人材を呼び寄せることで、会社のブランドイメージアップ、さらには現在で言うところのコンプライアンス強化、ガバナンス強化を目指したのだろう。セガとしては三顧の礼を尽くして迎えた人材だった。

一方の鈴木裕氏は1983年にセガに入社。85年にオートバイ・レーシングゲーム「ハングオン」を開発、このゲームは想定以上のヒットと売り上げをセガにもたらした。その後も「アウトラン」(86年導入)「アフターバーナー」(87年導入)などのヒットゲームを数多くプロデュースした。

鈴木氏のゲームは「飛んで、走って、撃つ」という3原則に依ったものが多く、それらはゲーム筐体がゲームソフトと連動し可動する「体感ゲーム」シリーズと呼ばれた。

これらのゲームのおかげで、ヒットゲームクリエイターに域に達していた鈴木氏の名声を盤石なものにしたのは、3次元コンピュータ・グラフィックスを活用したレースゲーム「バーチャレーシング」(92年8月導入)と、対戦格闘ゲーム「バーチャファイター」(93年12月導入)だった。この3次元コンピュータ・グラフィックスの活用からゲームは新しい時代に突入する。そして、それらを実現したのはエヌビディアを含む半導体産業である。

今回のトークイベントは、単なるテック企業のプロモーションではなく、フアン氏は2人の「恩人」との再会を果たし、それらを熱心なゲームファンが見守る形で進行した。

「セガがいなければ、鈴木裕さんがいなければ、そして入交さんがいなければ、今日のエヌビディアは存在していなかった。これは大げさな表現ではなく、冷酷なビジネスの現実だったのです」

左から鈴木裕氏、入交昭一郎氏、ジェンスン・フアン氏(写真:エヌビディア公式ブログより)

いまや時価総額で世界トップを争い、生成AI(人工知能)市場の覇者となったエヌビディア。だが、その足元を支える「GPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット)」の設計思想と、その経営は90年代中盤からのセガとの協力関係がなければ潰えていたことだろう。

現在、世界をリードするAI(人工知能)環境のベースは、まぎれもなく半導体であり、エヌビディアの躍進は凄まじい。しかし同社がビジネスの表舞台でブレイクスルーを果たしたのは、遡ること二十数年前、99年に販売開始されたGPU「GeForce(ジーフォース)」に由来する。それは、高速かつ精細な3次元コンピュータ・グラフィックスを民主化したもので、その背景には、セガの技術開発陣との間で交わされた、極めて濃密な研鑽と、資金提供と支援があった。

2次元から3次元へ、ゲームセンターの地殻変動

こちらの記事もおすすめ

あなたにおすすめ

ビジネス

人気記事 HOT

※過去1ヶ月以内に配信した記事の閲覧数