「『お客様がゆったり楽しむためには、窓がないといけないんです』ということを、プロジェクトに集まった有識者の方々に論理的に説明をして、その後、文化庁長官から承諾を得ました。こういったことが、すべてのプロセスにおいて必要でした」
こうして有識者とせめぎ合い、落としどころを見つけるのに、7年間の時間を要した。その完成形が、新旧が調和されたこの空間なのだ。一方で、どうしても変えられなかった場所もある。
階段だ。
ホテルの内部に入るためのエントランスにも、中央看守所に向かう途中にも数段の階段が残っている。
「階段はとにかくホテルにとっての壁でした。お客様は重い荷物もたくさんお持ちになられます。だから段差があると、スーツケースを運ぶときの労働の負荷が高くなるのです。ホテルとしては階段をなくしたかった。けれど、『重要文化財として絶対残してほしい』と文化庁側から要請がありました。『じゃあ、運営側でなんとかしないといけないね』と、折り合いをつけながら進めました」
「決めたことをやりきれ」が招いた誤算
掛川さんが総支配人として、奈良に着任したのは2025年夏だった。開業に向けた準備期間に全国から集まったのは、星野リゾートの生え抜きのホテルマンたち。日本初、
「とにかく決めたことをやろう、やりきろう」
過去にいくつもの開業準備を任されてきた経験からきた言葉だった。現場では、スタッフが客の言葉に翻弄され、「もっとこう変えた方がいいかもしれない」と悩んでしまうことが多い。
まして「星のや奈良監獄」は、星野リゾートにとって前例のない試みである。戸惑うスタッフもいるはずだ。だからこそ、「一度決めたことをやりきる」というルールを作った。
しかしその徹底が、思わぬ弊害を生んだ。
「設計通りにやろうとし過ぎてしまい、今度は喋ることも設計通りになってしまったんです。お客様から何かを問われたときに、そのお客様の問いに対してクリティカルに反応ができない、返答ができないという状況が起きてしまって……」

