客室は全48室、いずれも50〜70平方メートルの3タイプで、すべてがスイートルームだ。この極上空間を前にして、どうしても引っかかる疑念があった。ネットの口コミでも散見される、素朴な本音である。
「”負のイメージ”がある監獄を豪華なホテルにするのは悪趣味ではないか?」「奈良で1泊14万7000円からという価格は、正直、強気すぎないか」
この懐疑的な意見を、総支配人の掛川暢矢(かけがわ・まさや)さんに、ストレートにぶつけてみた。
60億円の耐震費。他社がさじを投げた難題
開業から7日後の、平日の昼下がり。夕方から賑わうというダイニングラウンジは、まだ静かだった。大きな四角窓の向こうには、四季折々に花咲く植物が植えられた中庭が広がっている。そのさまは、季節を切り取った絵画のようにも見える。
その側にあるソファに腰かけ、掛川さんの話を聞いた。
「14万7000円という料金は決して安くないと思っています」
掛川さんは、真っ直ぐに私の目を見て答えた。
「『高いから行かない』というレビューは見ていますし、いらっしゃるお客様からもお声をいただくんです。でも、この場に来ていただかなければわからない価値があると思っていて。『日本にはこんな素晴らしいものがあるんだよ』ということを世界に発信するためには、妥当な価格だと思っています」
たしかに、重要文化財にそもそも泊まるという体験はそうそうない。しかも、監獄だった場所に泊まるという体験は日本で初めてだ。海外のメディア関係者は開業前から訪れ、世界に紹介し始めている。
また、この強気な価格設定の背景には、途方もない重圧もある。「重要文化財を活用した日本初のPFI事業」という、前例のない挑戦だ。PFIとは、Private Finance Initiativeの略。民間の資金と経営能力・ノウハウを活用し、公共施設等の設計・建設・改修・更新や維持管理・運営を行う公共事業の手法を指す。
今回の耐震改修には補助制度を使えるものの、事業者が負担しなければならない費用もあり、設備や内装のコストも含めて独立採算で改修費を賄う必要があるからだ。

