そのバランスが崩れ始めたと感じたのは、子どもが生まれ、義家族との関わりに難しさを感じるようになってからだという。異国での暮らしと慣れない子育て。産後で余裕がないときに、思うように気持ちが伝わらず、もどかしさが募る場面も増えていった。
「今思えば、ガミガミ妻になっていました」
章子さんは当時をそう振り返り、苦笑する。
一方、元夫は当時をこう振り返る(スペイン語で取材し、日本語に翻訳)。
「出会ってからの最初の10年間、喧嘩をしたことはありませんでした。今思えば、お互い本音を言えていなかったのかもしれません。当時の自分は、本音を出さないことが癖になっていて、言い合いにならないのがいいと思っていたんです」
「オープンリレーションシップ」という選択
第1子出産から5年の間に、章子さんは第2子と第3子を出産し、子どもは3人になった。だが、義家族との溝は埋まることはなく、むしろ日々深まっていった。
夫とのすれ違いも増えていったが、 2人は「なんとかこの関係を続けていきたい」という気持ちだけは共有していた。そんなとき、夫婦の関係を保つためのひとつの選択として持ち上がったのが、「オープンリレーションシップ」だった。
オープンリレーションシップとは、お互いの合意のもとでパートナー以外の人とも親密な関係を持つ状態のこと。日本では、「オープンマリッジ」や「婚外恋愛」と呼ばれることもある(ここでは、オープンリレーションシップと表記する)。
きっかけは、3人目を出産して間もない頃に打ち明けられた、夫からの一言だった。
「実は、過去にあまり女性関係がなかったことを、少し後悔しているんだよね」
これを聞いた章子さんは、意外なほど落ち着いていた。
「へえ、そうなんだ……って。私も若い頃にそういう欲求があったから、気持ちはわかるなと思って。『そうだね。今のうち経験しといたほうがいいかもね』と答えました。こそこそ裏で隠れてされるより、『言ってくれてありがとう』という気持ちでした」
一方、元夫はオープンリレーションシップを始めようと話し合ったときのことを、今でも覚えているという。
「どんな話の流れでその話題になったのかは、正直よく覚えていません。ただ、実家の家族のことで抱えていた問題があって、家でも息苦しさを感じていました。そんな中で『試してみようか』と話し合えたことが、僕にとっては大きな救いだったんです。
彼女が理解しようとしてくれたことが本当にうれしくて、『何があってもあなたを受け入れる』と言われたような気持ちでした。まだ行動には移していない、あの話し合いの時間が、今思えば一番幸福感を覚えていた瞬間でした」

