そして2025年3月に入札が締め切られ、インド企業とコンソーシアムを組んだドイツ(DRAおよびシーメンス)とフランス(アルストムおよびL&T)の一騎打ちになった。その結果として2025年5月、シーメンス連合がアルストム連合の3分の1という破格の安値で落札した。
その後の契約がどうなったか知らないが、入札結果が出た時点で、筆者は日本製の車両や信号システムが導入される可能性はほぼなくなったと思った。筆者はインドでつたない経験しかないが、インド人との交渉は黙った方が負けることくらいは知っている。政府間交渉でのやり取りは知る由もないが、ここは絶対に譲れないという一線が正しく認識されていたとは思えない。
当然のことながら、欧州式信号の調達は円借款の対象ではない。日本政府の関係者は、円借款の対象外だから口を出すべきではないと判断した可能性がある。インド側は賢く、日本の技術を採用しないと明言すれば横槍が入るので、輸出向け標準軌車両の試運転を口実に入札を公示したのではないか? 筆者のように鉄道業界で40年以上仕事をしていれば、その入札イコール日本式信号排除と瞬時に判断できるが、日本政府の交渉担当者がその意味を理解していたか。その結果はMAHSRにとどまらず、今後のインド高速鉄道の標準システムから日本の技術が排除され、国益を大きく損なうことを意味している。
部分開業へ向けてのインド製高速車両
インドでは鉄道の開業は政治ショーそのものである。モディ首相の故郷であるグジャラート州内での部分開業目標は2027年8月15日、インド独立80周年の記念日である。その祝賀列車が日本製でなくインド製となれば、自らの実績をアピールする格好の演出となる。
NHSRCLはそれに投入するインド製高速車両B28を鉄道省系の車両メーカーICFに発注した。B28とはBullet Train(弾丸列車)の“B”と、設計最高速度時速280kmの“28”から命名されたものと思われる。インドの鉄道では、設計最高速度を営業最高速度の1割増しとする決まりがあるため、これは営業最高速度を時速250kmにすることを意味している。
しかし、筆者はムンバイの近郊電車でICFの品質レベルを目の当たりにしており、高速車両を製造するのは無理だと思った。どうやらICF自身もそう認識しているらしく、設計・製造をメトロで実績のあるBEMLに丸投げした。BEMLは韓国の車両メーカー、ロテムから技術移転を受けており、メトロの車両の出来栄えはロテム製と遜色がない。

