2024年、インド側は自国製高速車両の輸出も視野に、標準軌車両の試運転をMAHSRの線路で行うことを計画していると発表した。筆者はその報道に接し、その車両によるMAHSRでの営業運転の布石と解釈した。その数カ月後、2027年のMAHSR部分開業(スーラト―ビリモラまたはヴァピ間)にはインド製高速車両を投入するとの報道があり、筆者の悪い予感が的中してしまった。
しかし、その時点で信号システムへの言及はなかった。どう考えても日本式のDS-ATCでインド製高速車両を走らせるとは思えず、デリー近郊の準高速鉄道RRTSが採用している欧州式のETCS-L2を仮設する話が出てくるものと予想した。
車両以上に根深い信号システムの問題
MAHSRの事業主体である高速鉄道公社(NHSRCL)には、信号システムに決定権を持つK氏というやり手の役員がいる。彼は当初から国際規格との整合性や第三者認証を求めていたが、新幹線のDS-ATCはそれらにまったく対応していない。日本の新幹線は60年以上、鉄道事業者の責任による乗客の死者がゼロという実績が強調されるが、それはあくまで日本の尺度であって、海外ではそれだけで高評価が得られるとは限らない。軌道や電力などが新幹線での実績重視で決定が早かったのとは対照的に、信号システムは遅々として進展が見られなかった。
2025年1月、NHSRCLはMAHSR全線を対象とした信号通信パッケージの入札を公示した。それには欧州の信号システムであるETCS-L2を明記、試運転を実施するための仮設ではなく本設なので、日本のDS-ATCは一切採用しないことを意味する。なぜなら、同一路線に2つの信号システムを併設することなどあり得ないからである。
筆者はこれに対して、当然のことながら日本政府は横槍を入れるものと理解していたが、どうやら何も反論しなかったようである。2015年に日印両国政府間で署名された協力覚書を反故にしたインド側の理不尽な対応に対して、日本側が反論しなければそれを認めたことになる。

