戦争の究極の目的とは、敵を殺傷することではない。「こちらの意志を相手に強要し、屈服させること」にある。サイバー知能戦は、この「意志の強要」を、物理的な暴力を極力伴わずに、より純粋かつ不可視な形で実現するシステムだ。
この文脈を踏まえた上で、サイバー知能戦を一言で定義するなら、こうなる。
【サイバー知能戦】
「サイバー空間を舞台に、観測・理解・判断・実行・学習のループを奪い合い、相手の意思決定を先回りして"望む結果"を実現する競争」
ポイントは「意思決定」だ。相手が「攻撃された」と気づく頃には、勝負はすでについている。それがサイバー知能戦の正体だ。
知能とは「勝てる判断」を先に生み出す力
日本酒の味を決めるのは、米の量ではない。雑味をどこまで削れるか、精米歩合だ。
ここでいう「知能」もそれと同じだ。単にIQが高いとか、膨大なデータを持っている(インテリジェンス)という意味ではない。もっと実務的で、冷徹な能力のことである。
いつの時代にも共通する、戦いの勝敗を決する原則がある。それは、敵よりも正確に状況を把握し、敵よりも速く動いた側が勝つという単純な事実だ。サイバー空間において、この原則は極限まで純化される。
サイバー知能戦における「知能」とは、次の5つのプロセスを敵よりも高速に回す力を指す。
第1に「観測」。ノイズの海から、重要な兆候だけを拾う力。ネットワーク上には毎秒テラバイト級のデータが流れている。その大半は日常の通信であり、攻撃の予兆はその中にわずかな異常パターンとして紛れ込む。砂浜に落ちた針を見つけるような作業を、AIは瞬時にやってのける。
第2に「理解」。兆候を意味に変え、次に起きることを予測する力。異常なパケットが検出されたとして、それが単なるバグなのか、偵察活動の初動なのか、すでに始まった攻撃の一部なのかを見分けなければならない。文脈を読む力だ。
第3に「判断」。限られた時間で、最適な一手を選ぶ力。観測し、理解できたとしても、「ではどうするか」を決められなければ意味がない。通信を遮断するのか、監視を続けるのか、囮(おとり)を仕掛けるのか。この選択を秒単位で求められるのがサイバー知能戦だ。

