修復にあたって最も大きな課題となったのが、伝統的建造物群保存地区にある伝統建造物(通称、伝建)だったことだ。
伝建の場合、歴史的価値を保つために、厳格なルールに基づき、伝統的な形式、意匠、工法、材料を用いて、本来の姿を維持・回復させることが求められる。柱1つとっても丸ごと取り替えれば簡単に済ませられるところが、傷んだ部分だけを置き換えなければならないため、手間もお金もかかる。
もう1つの問題は、授与所の設置だった。
従来の神社には授与所がなかったため、元通りに修復しなくてはならない伝建の規定に従うと、回廊に授与所は設置できないはずだった。ところが、吉開氏が高校生の頃、母の静子さん(享年72)が簡易的な授与所を自らこっそり設置していた。この既成事実があったことで、吉開氏は授与所の設置を「なくてはならないもの」と押し通すことができた。
「当時の授与所は掘っ立て小屋のようなものでしたけど、母に感謝です。授与所がなければどこで御朱印やお守りを授けるのか、という話です。昔はなかったものとはいえ、授与所の設置はどうしても譲るわけにはいきませんでした」
これからの神社の可能性
昔から続く八女福島の燈籠人形が演じられる放生会(ほうじょうえ)のときにだけ訪れる場所だった福島八幡宮が、今や遠方からも人が訪れ、SNSで話題になり、人と犬で賑わう場へと変わった。
「変えていいもの」と「守るべきもの」を見極める吉開氏のこれまでの歩みは、衰退する地方文化や伝統産業に携わるすべての人が直面する問いへの、1つの答えかもしれない。

