「共感女優」という言葉で語られることもありますが、それだけでは少し足りない気がします。たとえ非日常の役を演じても、今の時代を一緒に生きているという日常の体温を失わない。多部が引き寄せるのは共感だけでなく、「なぜか気になってしまう」という感情です。
今回演じたクロエというキャラクターは、その好例です。年齢は公開されていない設定で、30歳のエマ(杉咲)より年上であることだけがわかっている。しかも、一見とっつきにくく、辛辣な言葉も口をついて出る。でも、多部がこの役を演じると、漫画の中のクロエがそのまま飛び出してきたかのようでいて、どこかそこに30代後半の女性の素顔がのぞく。
それは偶然ではないのかもしれません。今泉監督が「多部さんはコメディ的な芝居が本当に上手で。ドンと構えて、堂々とそこにいてくれた」と話していた言葉からも、多部には演じる役に絶妙な軽さを持たせるスキルがあることがわかります。キャラクターへの理解度も高く、それを自分のものにする力もある。だから、どこか憎めない多部が演じるクロエに、自然と愛着が湧いてくるのです。
イベントで杉咲は多部の印象について「声の柔らかさと可愛らしさで、すごく調和されている感じがした」と話していました。辛辣さが、多部の声と佇まいを通ると毒にならない。彼女が自然に身につけてきた空気感なのでしょう。
杉咲花との“絶妙なコンビ”
一方、1997年生まれの杉咲花は、これまたまったく異なるタイプの俳優です。広瀬すずや山本舞香と同世代の平成後期世代。朝ドラ「おちょやん」でヒロインを務めた杉咲は、多部とは逆に「身近にいないような女性」を演じることで物語の世界観をまるごと作り上げるタイプの俳優です。
多部が「わかる、私もそう」と視聴者を引き寄せるとすれば、杉咲は「こんな人が世界にいるのか」と別の場所へ連れていく。エマというキャラクターに、杉咲はそういう意味での説得力を与えています。多部はイベントで「いるだけで、なんだか違う存在感があった」と杉咲の現場での佇まいを振り返っていました。
この2人が同じ画面に収まったとき、「クロエマ」の独特の空気が生まれます。仲良しではない。口喧嘩もする。それなのに、仲が良いのか悪いのか、そんなことはどうでもよくなってしまうほど、見ていて心地がいい。

