その会社では、女性管理職の比率を急ピッチで引き上げるため、まだ十分なマネジメント経験を積んでおらず、本人も「時期尚早である」と辞退を申し出ていた女性社員を、半ば強制的に課長ポストに据えました。会社側は「彼女のステップアップを応援するための配慮だ」と胸を張っていました。
しかし実を言えば、後になって現場の人間がこっそり私に耳打ちしてくれた本音は、全く異なるものでした。
「上司から、政府の目標を絶対に達成させろという強烈な圧力があり、実力不足をわかっていながら無理やり昇進させたのが真相です」
結果は悲惨なものでした。十分な育成やサポート体制がないまま打席に立たされた彼女は、日々の意思決定やトラブル処理に追われ、精神的にも肉体的にも限界を迎えてしまったのです。さらに不幸だったのは、周囲の反応でした。
チームのメンバーや、地道に成果を積み上げてきた他の男性社員たちから、「実力もないのに、女性だからという理由だけでポストを優遇された」「ゲタを履かせてもらって、楽に変な出世をした」と冷ややかな目で見られ、陰口を叩かれるようになってしまったのです。生真面目な彼女は、「能力がないのにポストに就いてしまった」という自責の念と、周囲からの孤立に耐えかね、最終的に会社を去る選択をされました。
なぜ会社は「優しさの罠」に陥るのか?
なぜ、経営陣や人事部はこのような失敗を繰り返してしまうのでしょうか。その根底には、過剰な配慮という名の「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」が潜んでいます。
多くの管理職や経営陣は、「女性はメンタル面が繊細だから」「体力的にタフな交渉はきついだろう」「プレッシャーをかけすぎると潰れてしまう」と、よかれと思って勝手な手加減をします。
しかし、この「腫れ物に触るような優しさ」こそが、女性の成長機会やリーダーとしての覚悟を奪っている張本人なのです。上司は良かれと思って「声がけをした=良いことをした」と思っているかもしれません。

