しかし、過去のテレビ出演を振り返ると、彼女の実像はそのようなイメージだけでは捉えきれない。1980年代のテレビ業界では、音楽番組とバラエティ番組の敷居が低く、アイドル歌手が笑いの要素の強いバラエティ番組に出演して、歌を披露するとともに、コントなどにも参加することが珍しくなかった。
そのような番組では、中森は共演者とやり取りをして、柔らかな笑顔を見せたりもしていた。歌っているときの緊張感に満ちた姿とは対照的に、表情が崩れて、年相応の無邪気さが現れる。その落差が当時の視聴者を惹きつけていた。
中森はその後も数多くのバラエティ番組に出演していた。そういう場所ではよく笑い、相手の冗談に素直に反応し、ときには自分からおどけてみせるような気さくなところを見せていた。明石家さんまをはじめとする芸人と共演する際には、中森も構えることなく笑い、親しい知人と話しているようなくだけた雰囲気を見せていた。自分を面白く見せようとする計算よりも、その場で本当に感じたことが表情や声に出る。その不器用な素直さもバラエティで親しまれた理由である。
二面性こそが中森明菜の魅力
この二面性は、中森明菜を理解するうえで重要だ。歌っているときの彼女は、楽曲に合わせて別人のような表情を作り、観客を虚構の世界へ連れていく。しかし、トークする場面になると照れ屋で屈託なく笑う1人の女性に戻る。クールなイメージは本人の性格そのものというより、作品に対する集中力と自己演出の結果だったと考えるべきだろう。表現者としての完成度が高かったからこそ、視聴者はステージ上の姿をそのまま本人の人格だと思い込みやすかった。
かつてのテレビは、彼女のようなスターを神秘的な存在として見せる一方で、バラエティ番組内の雑談やハプニングを通して、人間的な素顔も映し出していた。その両方が揃うことで、視聴者はカリスマ性のある歌手を遠い憧れの存在として敬いながら、同時に親しみも感じることができた。

