大丈夫ということは……本当は……期待に応えられていないのかもしれない。評価されていないから、はっきり言われないのかも。
思考のループから抜け出せなくなった。
仕事で遅れを取らないようにしたくて、週末は業務を振り返り、スキルアップのための勉強もした。趣味の時間も削った。
希望の仕事につけて、自分なりにも頑張っている。それでも、腑(ふ)に落ちなかった。
寝付けなくなり、まとまった睡眠が3時間の日が2週間続いた。月曜日に会社へ行くのがつらいと思った。“電池切れ”だった。
そんなとき、新入社員研修で聞いた相談窓口の存在を思い出して、出口さんに連絡したのだった。
優秀な人ほど陥りやすい理由
出口さんが確認すると、男性と上司との関係は良好だった。厳しく指摘されたこともない。部内での評価もよかった。
なぜ希望部署に配属されたばかりの若手社員が、ここまで追い詰められてしまったのか。出口さんは言う。
「学生時代は、自分の成果は“テストの点数”として見えます。ですが、社会人は成果が見えづらい。成績が良かった人ほど、自分は期待に応えられているのか不安になりやすいこともあるでしょう」
男性を苦しめたのは、上司からの叱責ではなかった。
「いまの上司は社内でハラスメント研修を受けていて、若手に厳しく叱責して追い詰めません。むしろプレッシャーを与えないように、『今のままで大丈夫だよ』とやさしく声をかけました」(出口さん)
よかれと思った上司の一言が、逆に追い詰めてしまった。
男性は「評価されていないから具体的なフィードバックがないのでは」と深読みしてしまった。そこで出口さんは、上司との面談と、定期的な目標設定を勧めた。
「数字で評価できない仕事でも、目標が文面化されているだけで安心感につながります。面談して振り返る場をつくり、業務だけでなく体調についても話せる関係を築くことで、不安を貯めこまずに済みます」
医療機関への定期通院と並行してフォローを続け、彼は休職することなく回復に向かった。面談を重ねて3か月後、男性は見違える姿になっていた。
「私がいま悩んでいることは、3点です。1点目はこちらになります」と、出口さんの目を見つめて、テキパキと話しはじめた。礼儀正しく、論理的に話す本来の姿を取り戻していた。早い相談が早い回復につながったのだ。

