このため台湾政府は、供給側への厳格な取り締りを維持しながらも、薬物依存者に対する医療支援やリハビリテーション、更生保護制度の充実を進めている。厳罰と社会復帰支援を組み合わせた、多角的な薬物対策へと政策の幅を広げつつあるのである。
このように、行政院長の卓氏が取り締まり強化を打ち出したゾンビたばこ問題と交通安全問題は、現在の台湾社会における重要課題の一つとなっている。しかし、なぜこの時期にこれほど強いメッセージが発せられたのだろうか。
規制・取り締まり強化には政治的背景も
法務部の正式審議を待たず、「第1級薬物への格上げ」を前提とした厳しい方針が示された背景には、治安政策だけでなく、政治的な判断や選挙を意識した側面もあった可能性がある。
現在の台湾社会では、ゾンビたばこによる薬物運転への危機感が急速に高まっている。
2026年に入って以降も、エトミデートを使用した運転手による重大事故が相次いで発生しており、1月から5月までの間に15人が死亡し、139人が負傷したとされる。特に職務中の警察官が被害に遭う事件も発生し、社会的関心が一気に高まった。
薬物運転の摘発件数も高水準で推移しており、SNSや主要メディアでは政府対応の遅れを批判する声が強まっていた。こうした状況を受け、行政院は強い姿勢を示すことで世論の不満に応えようとした可能性がある。
また、現在の立法院は与党・民主進歩党(民進党)が過半数を持たない状況にあり、中国国民党(国民党)と台湾民衆党(民衆党)が一定の主導権を握っている。野党側は薬物運転への厳罰化を求めており、政府対応の遅れを批判していた。こうした中で行政院が先に厳しい方針を打ち出したことについては、野党に先んじて政策の主導権を確保しようとしたとの見方もある。
さらに2026年11月には統一地方選挙が予定されている。エトミデートは電子たばこ型製品として流通するケースが多く、若年層への浸透が懸念されている。治安や教育は有権者の関心が高いテーマであり、中央政府として強硬姿勢を示すことは政治的にも重要だったと考えられる。
一方で、専門家や法曹関係者の中には、専門審議会による正式な議論が行われる前に行政トップが厳しい結論を示したことについて、手続き面から疑問を呈する声もある。
それでも政権側としては、薬物運転への断固たる姿勢を示し、「国民の安全を守る政府」というメッセージを発信することを優先したと見られるのだ。

