放流しても死んでしまう可能性もあるので、それなら水揚げしてしまったほうがよいと考える人もいることでしょう。定置網の魚をクロマグロごと逃がして、その日のせっかくの水揚げがなくなってしまう漁業者の方もいます。
「漁業者は大変だ」「かわいそう」「クロマグロがもったいない」と考える人は日本では少なくないでしょう。目の前の魚を逃がす漁業者の負担は、もちろん軽いものではありません。だからこそ、「逃がすのはおかしい」と感じるだけで終わらせず、なぜそのような状況に追い込まれているのかを考える必要があります。
「もっと獲らせてほしい」というミスリードの深刻さ
6月になると、産卵期を迎えたクロマグロがまとまって沿岸にも回遊してきます。このため、さらに定置網に入りやすくなるでしょう。漁獲枠が機能し、漁獲を逃れて回遊してくるクロマグロが毎年大型化しているため、逃がす作業はますます大変になってきています。
資源管理が機能している国々では、漁獲枠がいっぱいになったら、赤信号で車が止まるのと同じように漁は終わりです。枠を超えても「まだ獲れるから」と漁を続けてしまえば、資源管理そのものが成り立たなくなるからです。
ところが日本では、こうした考え方が十分に共有されているとはいえません。水産業を成長産業にしている北欧・北米・オセアニアなどの国々では常識となっている資源管理の考え方が、日本ではまだ十分に浸透していないのです。そのため、「目の前にいるのだから、もっと獲らせてほしい」という声が出てしまいます。こうしたミスリードの影響はかなり深刻です。
クロマグロがまだ獲れるからといって、「枠が少ないことがおかしい」などと言い出す。それ自体、世界を知らない人たちが水産業を誤った方向に導いてしまう、あり得ない発想です。この発想に引っ張られてしまうと、魚が次々と消えていきます。そしてそれが、今の日本の水産業を取り巻く非常に厳しい現状につながっているのです。

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