一方で、体型の変化を批判される女優の場合、構造が真逆だ。
認知心理学者のロッシュ氏が1978年に提唱した「原型理論(Prototype Theory)」によれば、私たちの脳は物事を「カテゴリーの典型例(プロトタイプ)」との照合で評価する(※3)。
「女優」というカテゴリーのプロトタイプとして、多くの視聴者の脳内に形成されているのは、「一般人離れした美貌・スリムな体型」の女性たちだ。
このプロトタイプと一致した第一印象で記憶された女優は、その後の体型変化が「プロトタイプからの逸脱」として処理される。それが「劣化した」という心ない批判の正体だ。
しかし野呂は、最初の瞬間から従来の「女優プロトタイプ」の枠組みに入っていなかった。もちろん、可愛らしい顔立ちの女優だが、プロトタイプの女優たちと比べればぽっちゃりとした体型に加えて、作品によっては市井の人に扮することもできる親しみの持てる美貌である。
視聴者の海馬に形成された「野呂佳代ニューロン」は、最初から従来のプロトタイプとは別の枠組みで記録されているためだ。
なぜ世間は「女優を評価したがる」のか?
実は、この「枠組み分類メカニズム」は、ヒトを見るときだけでなく、モノを見たときにも同じように働いている。
筆者が長年研究してきたプロダクト・アピアランス研究では、消費者が商品パッケージを見るとき、脳内では人の顔に対してと同じ情報処理を行う「擬人化」の現象が確認されている。
そしてこの脳のメカニズムは逆方向にも働く。社会心理学者のオレヘク氏らの研究によれば、私たちはお金を払ってサービスを買うとき、その購買目標を達成するための手段として、人に対してもモノと同じように「客体化」を行っている(※4)。
つまり脳は、商品をヒトのように、ヒトを商品のように、同じ枠組みで分類・評価するメカニズムを持っているのだ。
