しかし10年前、この店は閉店危機を迎えていたという。作った総菜は毎日余り、値引きしても完売せず、余った総菜は近所の人に配っていたそうだ。
創業70年以上のフードショップヒライに、何が起きたのか。なぜ“素朴な総菜”がここまで客を惹きつけるのか。
開店と同時に、総菜が消えていく
「お待たせいたしました!開店でーす!お並びいただき、ありがとうございます!」
店から飛び出してきたレジ担当の多田良平さん(36)が、列の先頭から最後尾まで往復しながら声をかける。80人以上が並ぶ列の端まで、一人ひとりに届くように。その声とともに、客が順番に店内へ流れ込んだ。
店内に入ると、まず目に飛び込んでくるのは壁一面に貼られた三重県の絶景写真だ。鳥羽市の青い海、熊野古道の奥深い山、志摩市の夕焼け――。総菜屋とは無縁の光景と外観とのギャップに、思わず足を止めてしまう。
店に入ると中心に大きなテーブルがあり、その日の朝に作った総菜が9〜10種類並ぶ。コロッケ、味ご飯、弁当、照り焼きチキン、白和え、ぬた――。値札はすべて手書きで、価格は200円台から400円台が中心だ。店の奥には冷蔵ケースが2台あり、1台はスイーツ、もう1台は生の塩鮭や味付け鶏肉が並んでいる。
店内のルールは「右回りで、1列」。筆者は初めて来店したとき、入り口を直進した先にある冷蔵ケースの商品が気になって真っすぐ進んだことがある。その際、「ここは一方通行やよ」と常連客に声をかけてもらった。入店したら、すぐ右が鉄則。
「戻れないから、今ここで買っておかないと」「安いし、今あるうちに買おう」。そんな焦燥感が働くのか、客のカゴにはどんどん品物が積まれていく。吟味しながら「お先にどうぞ」と順番を譲る客や、商品を購入するか悩んでいる人に「これ、美味しいわよ」と勧める常連客もいた。
