このSF短編集の最後の作品、「しあわせの理由」は認知の制御をテーマとする話だ。
主人公は12歳の頃、脳に腫瘍ができたことによって、理由なくつねに幸福感を得るようになってしまう。脳腫瘍を摘出すると、今度は幸福感を完全に失う。長い年月を医療施設で過ごしたのち脳の再建手術を受けるが、その手術は4000人の死者のデータを基につくられた感情を混ぜ合わせたものだった。術後、医師から「どういった出来事に幸福感を感じるか」を調整するためのダイヤルを与えられた主人公は、自分のやっていることがどれだけ楽しいかを、自分自身で決定できる能力を手に入れ、その都度、決断を迫られる。
現実にも、類似の発想はさまざまな領域で見られる。例えば、食べすぎを抑制するためVRで食べ物を大きく見えるようにし食欲を減退させる手法や、電気信号によって実際より強く塩味を感じさせる研究がある。それらは私たちの感覚をいじって、編集することでもある。広く見れば、薬も同様の技術だ。カフェイン飲料を飲んで集中力を高めたり、アルコール飲料を飲んでリラックスしたりするのも、こうした効果の一種といえるだろう。人類の文明は、人間の感じ方をうまく調整するダイヤルを徐々に発明してきたともいえる。
どこに価値判断の根拠を置いたらよいのか
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