あらかじめ通過位置にピントを合わせておく「置きピン」は吹雪で通用しない。
「列車が近づくのに合わせ(レンズの)リングを回し、目でピントを追いかけて撮りました。(リングの回転は)一定速度ではありません。放物線のグラフを描くんですね」
カメラに身体感覚を重ね合わせて撮影する広田さんの真骨頂だ。現在もピントはマニュアルで合わせるのがほとんどだという。
展示には、2枚のうちC62がより近くに来た2枚目を選んだ。画面上部のヘッドライトや煙突、下部のスノープロウ(雪かき)は途中でフレームアウトしている。
「はみ出しちゃってますよね。でも、こっちの方が気に入っているんです、シロクニ(C62)らしいなと」
なにも「車体を画面内に収めなければならない」という決まりはない。高度な撮影技術を基礎にした独創性が垣間見える。
工場地帯の電車にバラの花を
極彩色の一枚がある。JR鶴見線の電車を捉えた最新作だ。水面に浮いた虹色の油のような色彩は、画像編集ソフトで明るさ、明暗差、色合いを大胆に修整して得られた。
「鶴見線を訪ねたら、色がないんです。工場地帯で灰色の印象だった。だから、バラの花を電車にささげたかったんです」
広田さんが「アート寄りの写真」と位置づける作品の1つだ。車両の全体が分かるように記録する鉄道写真の「主流」とは一線を画す。1990年代末に写真界でいち早くデジタルカメラ導入して以降、独自の表現を一層追求している。
