ところが調べると、ハヤシという男がAさんの会社にいないだけでなく、マンションの入居者が退去予定という事実もなかった。さらにその後、マンションの管理組合に問い合わせたところ、高橋さんに理事を依頼するという話など出ておらず、理事長として電話をかけてきた男も存在していない。
ハヤシと理事長の電話番号は控えてあったが、こちらから何度かけてもつながらなかった。さらに代行会社が受けた息子を名乗る男の電話番号も、高橋さんの息子のものでないことがわかった。
だが、最初にハヤシの電話を受けた時点ではそうしたことはわからず、高橋さんは「長年付き合いのある管理会社の勧めなら…」とハヤシを信用して売却を決意。その場で金額を相談した。そして、数時間後には買い取り業者から電話が入り、ただちに契約する運びとなった。
高齢の未亡人が狙われている
そこまで聞いてAさんは席を外してもらっていたB社のヤマダを呼び戻した。
B社は中京エリアに本社がある設立まもない不動産会社で、ヤマダは東京に支社を設立する役割を担って赴任。あちこちに営業の電話をかけたうちの一人がたまたま高橋さんだったという。
「ヤマダ氏はハヤシも弊社も知らない、自ら電話でちゃんと営業をした結果、成約したのだと言い張りました。ハヤシの電話の直後にハヤシと相談した額と同額を提示しており、あきらかに怪しくはありますが、関わりを証明する手だてがありません。知らないと言われたらどうしようもありません」(Aさん)
それでもAさんは粘った。契約書を見るといくつか内容に矛盾があり、売買価格も相場から考えると2~3割は安かった。必要書類が不足していることもわかった。
「そこで、もう一度、最初から交渉をやり直すということで、契約を白紙に戻してもらえるよう交渉しました。契約締結後の白紙解除は非常に難しいので、なんとか覆せて、解約合意書を交わせたのは幸いでした」(Aさん)
法務局で不動産登記簿謄本(登記事項証明書)を取得すれば所有者はすぐに調べられる。実際、不動産会社の営業マンはそうやって所有者を調べ、営業をかけているのだ。
「自身の経験や同業者の話などを総合すると、どうやら高齢女性かつ夫から不動産を相続した人たちのリストが出回っているようです。彼女たちは不動産についての知識がなく、相談先もないことが多いため、自分が住んでいない不動産などの場合には面倒だから売ろうとなりがちだからでしょう。
これまでにも何件か相談を受けていますが、契約後に後悔したとしても、手付けを倍返しする、多額の違約金を払って合意解除するなどの方法しかなく、一筋縄ではいきません」(Aさん)
