今でこそ日本でもこの疾患の検査ができるようになったが、当時はまだ一般的に知られていない病気であった上、国内の病院や専門機関でも一般的に検査できる体制が整っていなかった。そのため、ICUに搬送された後もAさんの病名はすぐに明らかにはならなかった。
「妹の24歳の誕生日、私たち家族はまだ診断名がついていない状態で “命に関わる処置をしていいか”という書類に、何十枚もサインしなきゃいけなかった。不確かな中で妹の命の選択をしなければならないことが、本当につらかったです」
Aさんの姉は、そう語る。この時点で、Aさんの意識はもうなかった。ICUで眠るAさんの身体は、無数の管がつながれていた。無意識の状態でも突然ベッドの上で暴れ出してしまうため、鎮静剤で強制的に眠らされ、身体も拘束されていたという。
その後検査のため、Aさんから採取した髄液はスペインの専門医へ送られ、そこでようやく「抗NMDA受容体脳炎」の診断が確定したという。
「病名がわかったときはホッとした反面、そんな病気聞いたこともないっていう怖さもありました」
Aさんの姉は妹の看病のために休職し、病気について徹底的に調べ続けた。だが、調べれば調べるほど不安は大きくなっていく。
「8年後や10年後に意識を取り戻した方の記事を読んでしまって。じゃあ妹はいつ目覚めるんだろう、って……」
2012年の夏、Aさんは昏睡状態のままだった。
夢を選ぶか、命を選ぶか…
「抗NMDA受容体脳炎」は外部からのウイルス感染によって発症するものではなく、自己免疫機能が何らかの理由で異常を起こし、誤って脳を攻撃してしまうことが原因で起きる。
