「社会人1年目だから、簡単に休めないと思っていました。同期も頑張っているし、自分だけ弱音を吐いちゃいけないって」
実際に、長引く体調不良を快く思わない上司もいたそうだ。「最近の若い子はすぐ休む」「体調管理も仕事のうちでしょ」そんな言葉を投げかけられることもあり、Aさんはますます休みづらくなっていった。
Aさん自身も「甘えているだけなのかもしれない」と、自分を責め続けていた。しかし、その一方で、ずっと消えない違和感を抱えていた。
「職場では“新しい業務を覚えられない”というより、“人の話を理解できない”と感じることが多くなっていきました。幼少期から続けていたピアノも、譜読みがまったくできなくなって……。今までは数回弾けば覚えられたのに、何十回練習しても頭に入らない。何かがおかしい、という感覚が、段々強くなっていきました」
その違和感が確信に変わる日は、そう遠くなかった。
「家がどこかわからない」壊れていった日常
決定的な出来事が起きたのは、2012年7月9日。その日も高熱を誤魔化して出社したAさんは、携帯電話を会社へ置き忘れたまま帰りの電車に乗ってしまう。当時実家暮らしだったAさんは、最寄駅へ着くと携帯がないことに気づいた。その瞬間、頭の中が真っ白になったという。
「なぜか突然、自分の家がどこなのかわからなくなったんです」
どうにか帰ろうとタクシーを呼ぶが、自宅がわからないため道順を説明できない。仕方なく運転手に身分証を見せ、そこに記載のある住所を頼りに家まで向かってもらった。だが最後には、お金の支払い方すらわからなくなっていた。
「“お金”っていう概念はわかるんです。でも、どれが千円札で、どう払えばいいのかが理解できなかった。そこまではギリギリ記憶があるんですが、その後のことはもうほとんど覚えてません」
