ハードルの下げ方には戦略がある。実は、読書のハードルには「長さ」と「難しさ」という2種類があり、多くの人は下げる方向を間違えているのだ。
簡単なのに読めないのは「長いから」である。すでに知っていることや、当たり前のことを300ページかけて読まされるのは苦痛だ。刺激がなく、それでいて時間だけは奪われる。これでは続かない。
一方、短くて難しいものを読むのは、想像以上に楽しい。1つの作品が数ページ~数十ページしかないオムニバス的な本を、細切れでもいいので唸りながら読む。どんどん作者やテーマが変わり、飽きがないのにハードルは低い。
私の鞄には、最近常に雑誌『現代思想』(青土社)が1冊入っている。電車の中で数ページ進むだけで、1つの完結した話が読める。
子どもへの応用も同じである。「本を好きになってほしいから易しい本を選んであげる」という親心は、実際はほとんど機能しない。子どもは「易しい本」を「退屈な本」として認識し、結果ますます本から離れていく。むしろ難しくていい。短ければ読むハードルは下がる。
具体的にお勧めしたいのが、氏田雄介さん編『54字の物語』(PHP研究所)である。タイトル通り、たった54字で1つの物語が完結する。短いからこそ、逆に行間を読まないといけない。子どもは短いからこそ、集中して読むようになる。
もう1つ子どもへのおすすめとして挙げたいのが、天久聖一さん編『挫折を経て、猫は丸くなった。』(新潮社)などのいわゆる「書き出し小説」と言われるジャンルの本だ。
本文はない。書き出しの一文だけで、物語全体を読者に想像させるという形式である。1作品は数行、難易度は決して低くないが、子どもの読解力と想像力にこれ以上ない刺激を与える。
少し年齢層が上がってきたら、『ちくま評論選』(筑摩書房)を勧めたい。
高校生向けの評論集だが、テーマは大人でも唸るものばかりだ。1本10ページ程度の短さで、内容は容赦なく難しい。この「短くて難しい」黄金比こそ、現代において読書を続けさせる効果的な方法だと私は考えている。
ハードルを下げるなら、難易度ではなく長さを短くせよ。これが第1の処方箋である。
処方箋2.「白い部屋理論」——私が家で本を読まない理由
それでも、本を開かない日はある。「読まなきゃ」と思いながらスマホを握ってしまう。これは意志の問題ではない。環境の問題である。
私が以前から提唱しているのが「白い部屋理論」だ。想像してほしい。何もない、真っ白な6畳間。窓もない、スマホもない、テレビもない、装飾もない。完全に外部刺激が遮断された空間。その部屋の天井から、ポンと1冊の本が落ちてくる。さて、あなたはどうするか。
絶対に読む。
これは断言できる。人間は、白い部屋に閉じ込められて選択肢が1つしかなければ、必ずそれを選ぶ。しかも、「読まなければならない」と思って読むのではなく、自発的に読んでいる。ほかに選択肢がないからだ。これこそが人に勉強や読書を「自発的に」させる、最も確実な方法である。
「勉強しろ」と口うるさく言う親より、何も言わない親のほうが子どもがよく勉強する、という話を聞いたことはないだろうか。



