木守庵は環七に面しているために、車で乗り付けて購入するお客さんもいる。また、自転車を店の前にさっと停めて、慣れた様子で目当てのサイズを買っていく人もいる。久原さんとは立ち話のようなかっこうで、30分ほど時間をいただいたのだが、その間にもひっきりなしに客が訪れた。
「コンビニに売っている甘栗と比べると、うちの商品の価格は高めですけど、地元の人がよく買っていってくれます。変な言い方なんですけど、気に入ったものにはケチケチせずにお金を使う、そんな人が住む街なんですよね」(久原さん)
甘栗のお味のほうは…?
家賃は安いが、住民たちの懐はわりと潤っている。久原さんの言葉の裏にはそんなニュアンスがあるように感じた。
購入した甘栗をその場でひとつ食べてみた。栗の腹に親指の爪を当てて押すと、パリッと割れて、つやつやの実が現れた。口に含むとほんのり甘い。
「コンビニやスーパーの甘栗を食べ慣れている人には、ひょっとしたら甘みが物足りないかもしれないけど、うちのは砂糖や甘味料を加えずに栗本来の甘みを引き出す伝統的な焼き方を守り続けています」(久原さん)
栗本来の味を楽しみたい人にはおすすめだ。
街に住む人たちの話を聞いていると、ちょくちょく地元の大地主一族の名前が出てきた。ここではT家としておく。
犬の散歩をしていた70代の男性はこう言う。
「このへんはタワマンみたいなのがあまりないでしょ。なぜかというとね、T家がしっかり街を管理しているからなんだよ。T家があるかぎり、街の様子を大きく変えるような再開発は進まないんじゃないかな」
別の人からは「T家が地元で小売り商売をやっているから、外から派手なスーパーなどは入ってこれない」といった話も聞いた。これらがどれだけ事実に即しているのか定かではないが、都市伝説のように語られていることだけは事実だ。
