『江戸川区の民俗2 一之江境川沿岸地区の民俗(江戸川区教育委員会編)』には「一之江境川の沿岸地域は江戸川区の中央部に位置し、かつてこの川から分岐する大小の用水路によっても豊富に水を供給される肥沃な水田地帯を形成していた」とある。
水田地帯として栄えた歴史的背景が、一之江の静かでゆったりとした住環境と、立派な邸宅が立ち並ぶ景観を生み出していると言えそうだ。要するに金持ちが集まってきた街ではなく、元から住む人たちが、自分の土地に昔ながらの家を建てているわけだ。
言われてみれば、入り口から母屋までの間に広い前庭があり、納屋と思しき土壁の建物を残している家もある。いかにも田舎の農家の造りだ。そんな風景を楽しみながら歩いていると、後ろや前に子どもを乗せた自転車と何度もすれ違う。そこでまた、諸永さんの言葉を思い出した。
「家賃の安さもあるのか、最近では子育て世代の若いご夫婦からの問い合わせも増えています。人口の流入も活発になってきているので、今後は家賃も上がってくると思いますよ」(諸永さん)
甘栗屋がこの街を選んだ理由
街を横切る環七沿いに目立つ看板を見つけた。4階建ての倉庫のようなぶっきらぼうな造りだが、1階の壁に大きく「甘栗」とある。ちょうど小腹がすいていたので、迷わず訪ねた。
「木守庵(江戸川区一之江5-16-15)」は創業50年以上の甘栗屋だ。2代目である代表の久原秀介さんが話を聞かせてくれた。久原さんは「一之江に来たのは3年ほど前なんですよ」と前置きし、この街を選んだ理由を次のように説明してくれた。
「弊社はもともと品川区で創業し、その後亀戸(江東区)など、これまでに工場直売所として数箇所の移転を重ねてきました。一之江を選んだ最大の理由は、城東地区(墨田区、江東区、葛飾区、江戸川区など)で事業用の物件を探していた際に、広さと賃料のバランスが最も優れていたことでした。特に以前拠点を置いていた江東区に比べ、一之江は割安感があります。工場直売所として十分な広さを確保しつつ賃料を抑えられるという現実的な条件が合致したわけです」(久原さん)
事業用としてもやはり、家賃はお安めなようだ。
