イライラなど、ネガティブな感情は相手にあえて伝えない。そのほうがうまくいく。よくわかる気がする。しかし、この調査で驚くのは、ポジティブな感情についても抑える意識がうかがえる点だ。
「良いことがあったとき、浮かれ過ぎないよう感情や気持ちを落ち着かせることがある」という項目には、「そう思う」と回答した人が64.1%にのぼった。
「『自分は今、気分が高揚している“ハイ状態”かもしれないと客観的に捉え、やり過ぎないようにする』という声もありました。良いことがあっても、その後の失敗との感情の落差を小さくしようとして、あらかじめ気持ちを落ち着かせようとする意識がうかがえます」
出さないことが当たり前
松井さんが聞いたなかには、こんな60代の女性の声もある。
昔は買い物のときにレジにいる従業員とも、たとえば「支払金額がゾロ目になったよ」など些細な喜びや笑いを分かち合えた。でも今は事務的な対応に終始され、女性のほうもだんだんと喜びの感情をミュートしていくようになった。そんな寂しさがあると話してくれたのだという。
「昔は出せた感情が、今は出しにくくなっていると感じる人もいます。誰かに子どもができた際、以前は『ここは喜ばしい感情を出す場面だ』と受け止められることが多かった。
でも現在では、不妊治療をする人の存在が可視化されるなど、『必ずしも大々的に喜んでいい場面ではないのではないか』と考える人も増えている。『自分の喜びは必ずしも相手の喜びとは限らない』という認識が広がることで、感情が出しにくくなり、なるべく出さないようになり、ひいては、出さないことが当たり前の流れになっている面もあると思います」
人種や性的指向、働き方など社会全体で多様性への理解や配慮が進んできた。そのなかで同時に心の多様性、感情の多様性も進んだ。
素晴らしいことである一方で、自分の思ってることに必ずしも相手が同じように共感してくれない場面も増え、相手を傷つけるなどのリスクを避けるために感情をミュートする──そんな背景もあるのではと松井さんは読み解く。
