「加えてもう一つ考えられるのは、『効率思考』の高まりです。今回の調査では『感情や気持ちが揺れ動くことがわずらわしいと感じることがある』に『そう思う』が過半数(56.0%)いました。『感情を出してケンカや事件など面倒ごとに巻き込まれるのを避けたい』など、タイパ・コスパの面から感情をミュートすることを選択する傾向もうかがえます」
多様性配慮
一方で、不思議な調査結果もあった。
「人と接するとき、その人の感情や気持ちを出してほしい」という項目に「そう思う」が62.5%もいたことだ。矛盾するようなこの声を、どう見ればよいのか。
「感情をミュートしても、相手と関係を築きたくないわけではないので、相手がどう思っているのか、それにどう対応したらいいのかを『読もう』とはする。
でも自分が感情を出さないなか、相手のそれを読もうとするのはなかなか難しいこと。だから『相手は出してくれたほうが楽だな』という相反する気持ちが出てきてしまうのだと思います」
この傾向は今後どうなっていくのか。松井さんは「元に戻ることはないのでは」と話す。
「多様性配慮が進んでいく社会が逆に、差別やハラスメントを許容した『感情ミュートをしない時代』に戻ることは誰も望まないでしょうし、効率思考とは逆に『何事にも時間をかける生活』が主流になることもないでしょう。
背景には不可逆的なものが多く、かつ今の社会を次世代は見て育つので、再生産もされる。どちらかというと、感情ミュート社会はいっそう進んでいくと私は見ています」
そんな社会がもたらすものは何か。「感情をぶつけ合わない社会なんて、寂しいな」と感じる人もいるかもしれない。しかし、松井さんはこの潮流をポジティブに捉えている。
「感情をミュートする一方で、自分も他者も傷つかない形でどうやって自分の感情を処理し、整え、伝えたり触れたりすればよいのかを、ポジティブに考え始めている人も多いと感じるからです。
多くの人が新しい感情の扱い方を模索する社会になっていくことで、『感情ミュート社会だからこそ、感情表現がより豊かな』社会になっていく可能性もある。
不可逆な社会潮流であるならなおのこと、そういったポジティブな模索をサポートするあり方を考えることが必要になってくるのではないかと思います」
(AERA編集部・小長光哲郎)
