意志力は筋肉のように、一時的に疲れる、というのが彼らの提唱した仮説です。
その後の研究で「意志力が減る」効果は当初の報告ほど大きくないとする見解も出ていますが、「一日の終わりには自制心が利きにくくなる」という現象自体は、多くの研究者が共通して認めています。
これを一般的な社会人の一日に当てはめてみましょう。
朝の通勤で混雑をやり過ごす。出社後はメールとチャットに追われる。会議では空気を読みながら発言し、理不尽な要求にも感情を抑えて対応する。上司への報告では言葉を慎重に選び、取引先の前では穏やかな表情を保つ。
これらすべてが、自己コントロールの燃料を消費する行為です。
夜になって「さあテキストを開こう」と思っても、燃料計はとっくに空に近い。
これが、帰宅後に勉強が手につかない本当のメカニズムです。
脳には「疲労物質」がたまっている
意志力の話だけではなく、脳の物理的な疲労を測定した研究もあります。
ソルボンヌ大学のヴィーラーらは、難しい認知課題を何時間も続けた人の脳を、磁気共鳴スペクトロスコピーという手法で調べました。
その結果、前頭前野(判断や自己制御を司る脳の司令塔)にグルタミン酸という神経伝達物質が蓄積していることが分かりました。
グルタミン酸は脳に必須の物質ですが、多くなりすぎると神経細胞にとって負担になりえます。脳は自分を守るために、判断のスピードを落としたり、やる気を抑えたりして、これ以上の負担を避けようとしている可能性が指摘されています。
つまり、「夕方になって急にやる気が萎える」「夜になると考えるのが面倒になる」のは、サボりではなく、脳からの「これ以上はリスクだ」という保護信号と解釈できます。
