そうした相談者のなかに、ひとり暮らしを望む60代後半の高齢者がいた。十分な収入と資産がありながら、どのオーナーも部屋の貸し出しを拒否した。実際、高齢者の部屋探しは難航するケースが多い。なぜ高齢者は部屋を借りにくいのか。鮎川さんはその最大の理由を「孤独死リスク」だと説明する。
「高齢者は社会との接点が少なく、ひとりで暮らしていると万が一のことがあっても発見が遅れやすい。発見が遅れれば部屋の修繕に多額の費用がかかり、資産価値も下がってしまいます。だからオーナーさんの多くは、最初から高齢者の入居を断ってしまうんです」
保証人がいるかどうか、収入が多いか少ないかという問題ではない。オーナーが高齢者の入居を敬遠するのは、偏見ではなく損失を避けるための判断だ。だからこそ、個別の善意や努力ではなく、仕組みそのもので解決する必要があった。
なぜ普通の賃貸アパートなのか?
高齢者が安心して暮らせる住宅としては、専門スタッフが常駐するサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)がすでに存在する。しかし鮎川さんが立ち上げたノビシロハウスは、一般的な賃貸住宅だ。なぜアパートという形態を選んだのか。
「人を常駐させて雇えば、それはサ高住と同じになります。職員を雇うと人件費がかかり、家賃は高くなる。しかも、入居者と職員という関係性しか生まれないので、親しくなって自然な交流にはなりにくいんです」
鮎川さんが編み出したのは、高齢者と若者が同じアパートに暮らし、日常の関わりそのものが孤立を防ぐインフラになる仕組みだった。
ノビシロハウスは2階建ての「South棟」と「North棟」で構成されている。居住棟の「South棟」には約20m²のワンルームが8部屋あり、1階の4部屋は高齢者が最期まで暮らせるバリアフリー設計だ。2階の4部屋は全世代対応のつくりで、現在2室に「ソーシャルワーカー」と呼ばれる若者が入居している。
次ページが続きます:
【若者と高齢者、双方にメリットができる仕組み】
