しかし、現在の民主主義は、このような理想に到達しているとはおよそ言い難い。国政選挙の投票率はおよそ半分にとどまっている。地方選挙に至っては、政治家の成り手すら不足している有様で、多くの人が既存の政治に満足していないのは明らかである。民主主義の根幹をなしている選挙が機能不全に陥り、ネット上では党派性に基づいた罵りあいが溢れ、熟議からはかけ離れた現実が広がっている。
機能不全に陥る民主主義、真実を蔑ろにして、自分たちにとって都合のいい物語を構築する政治家ならびに、その支持者によって運用される政治に、見切りをつける人が出てくるのは、それほど不思議ではない。「それって、あなたの感想ですよね?」という、いかにも思いやりを欠いたフレーズが、良くも悪くも広がったのは、このような背景があったからだと解せる。
ドナルド・トランプとポストトゥルース
加えて厄介なのが、世間に溢れるフェイクニュースである。SNSの普及は、多くの人々に情報発信の機会をもたらした。言論の自由を重要な要件の一つとする民主主義にとって、これは基本的にはいいことのはずだ。
ところが、人々が自由に物事を発信できる時代は、我々が思い描いていたほどいい時代ではないことが、既に明らかになっている。フェイクニュースと呼ばれる、事実に反したニュースがSNSを駆け巡り、真偽不明な怪情報が、政治の趨勢を左右する事態すら招いている。
人はこのような状況を、「ポストトゥルース」と呼んだ。この言葉が人口に膾炙したのは、2016年にドナルド・トランプが大統領に当選した時であった。トランプはまさに、フェイクニュースの使い手として、これまでの政治の常識を覆すような言動で物議を醸したことで知られている。
トランプ政権下で広まった、ポストトゥルースの状況を象徴するタームの一つが、「オルタナティヴ・ファクト」(Alternative Facts)である。これは、「もう一つの事実」を指し、トランプ大統領の顧問であったケリーアン・コンウェイが、記者会見で用いたことで広まった。
これを説明するには、若干の背景知識が必要である。コンウェイの発言の前に、ホワイトハウス報道官のショーン・スパイサーが、トランプ大統領の就任式にはたくさんの人が集まったと述べ、メディアがそれを過小評価していると批判した。スパイサーはさらに、トランプの就任式には最大の観衆が集ったと続けたのだが、空撮写真や、当日の公共交通機関の利用者数を参考にすれば、これが虚偽なのは明らかだった。
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【「自分たちが依拠しているのはオルタナティヴ・ファクトである」】
