一瞬を競う競技だからこそ、「瞬間」にかける研究は本物です。100枚を暗記するのはもちろんのこと、「100枚のうち、何枚がどの文字から始まって、何文字目から分化するか」まで覚えて、ようやくスタートラインだと言います。
たとえば、先ほど紹介した「田子の浦~」の歌は、2文字目まで詠まれた瞬間に札が確定します。「た」から始まる札は6枚ありますが、「たご」と続くのはこの歌だけなのです。これが最小ではなく、「あ」から始まる札は16枚もあるそうですから、競技者は「あ」と詠まれた瞬間に、16枚の札の位置を再確認しつつ、次の文字に耳を傾ける必要があります。しかも、0.1秒遅れたら得点を落としかねないのですから、試合中は1秒たりとも気を抜けません。
私たちは、仕事において集中すべきタイミングで集中することを日ごろから求められます。社会人としては当然ですが、それにしても「集中すること」のなんと難しいことか。たかだかランチを済ませた程度で、脳にはもやがかかり、研ぎ澄ますどころかうすぼんやりした霧の中に沈み込んでいってしまう。
本書では、競技かるた名人戦で3連覇した経験を持ち、京都大学首席合格者でもある粂原圭太郎名人が、名作かるた漫画『ちはやふる』の名シーンを引用しつつ、どのようにして「短期・中期・長期的な集中力を培うか」について示してくれます。「かるた」とビジネスは確かに異なりますが、「何かを注視し、傾聴する集中力」は共通するはず。どうすれば集中を保てるようになるのか、かるた名人に学んでみてはいかがでしょうか。
トータルで勝つための俯瞰力を鍛える本
少し話は変わるのですが、みなさんは、仕事や勉強において「想定外の事態」に直面したとき、どのように対処しますか?「絶対に受かると思っていた試験で見たこともない難問に出会う」とか「完璧だと思い込んでいた企画が根底から覆された」とか、我々の日常は「想定外」であふれています。
今年、私は日本最難関である東京大学理科Ⅲ類に合格した学生21名に取材をしてきました。その中には、去年惜しくも不合格となり浪人でリベンジを果たした方も数人いらっしゃいましたが、彼らの話を聞いた限りでは、明らかに去年受かっていてもおかしくない人たちばかりでした。中には0.4点差で落ちた方も。
では、どうして落ちてしまったのか? その理由を、ある女性は「想定外の事態に対する耐性がなかったから」と分析します。去年の東大数学は、ここ10年を見渡しても明らかに群を抜いて難しく、パニックになってしまったことが失点を招いたというのです。
実は、今年の東大数学も、去年に輪をかけて難しくなっています。全6問ある出題のうち、理Ⅲ生ですらも1問を解けるかどうかといったところ。明らかに高校生が解ける難易度を逸脱しており、人生がかかった試験でそんな問題に直面したら、焦って解ける問題も解けなくなってしまうでしょう。
しかし、今年取材した彼女は、合格したからこの場にいるわけです。もちろん彼女とて、余裕で解けたわけではありません。むしろ「何を言っているかわからない」と焦らされた側の一人でした。
それでも彼女が合格にこぎつけたのは、「想定外をのみ込む度量」を身に付けたから。受験までの1年間を経て、「どうせ簡単になると思っていたから驚いたが、自分が解けないならどうせみんな解けないから、大勢に変化はない。むしろ焦ることが不利につながると予想した」と受け流せるまでに精神的に成長したのでした。
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【どうすれば「大局観」は身に付くか?】

