ところが「大好きだった」と語るその家を、とある事情で引っ越しを余儀なくされた。次の住まい選びの絶対条件は、がんを患う夫のかかりつけの病院に近いこと。その条件で探した結果たどり着いたのが、現在の25m²、6畳1Kのワンルームだ。前編で詳しく紹介した通り、明らかにひとり暮らし用のサイズだが、大木奈さんにとっては「ここで会ったが百年目!」と思うほど理想的な物件だった。
では、大木奈さんの「空間を自分に合わせてつくり変えたい」という感覚は一体いつからあるのだろうか。
原点を探るには、京都で過ごした少女時代までさかのぼる。古い町家や寺社仏閣がそこかしこに残る街で育った大木奈さんは、小学生の頃から文化住宅(高度経済成長期に大量供給された、木造2階建ての賃貸集合住宅)を見て「しびれていた」そうだ。
「古い建物に憧れてましたね。古くて狭い感じにしびれるというか。豪邸いいなって思うのと同じくらい、古いアパートに住んでいる子のことをうらやましく感じてました」
築100年を超える京都大学の学生寮「吉田寮」や、戦前に建てられたといわれる「銀月アパートメント」など、長い時間を経た建物がまとう独特の空気にも惹かれてきた。その理由を大木奈さんは「京都出身というのも影響しているかもしれない」と分析する。古いものを壊さず、現代の暮らしに合わせて使い続ける街で育った経験が、大木奈さんの根底にある価値観を育んだのだろう。
モノを削ぎ落とし続けた先に見つけた「ちょうどいい」
かつて大木奈さんは、暮らしから徹底的にモノを排除していたという。
「合理的にすることにハマってたんですよね。モノが少なければ少ないほどいい、みたいな。これも減らせる、あれも減らせると考えるのが楽しかった」
狭い家は、油断するとあっという間にモノでいっぱいになってしまう。小さく暮らす快適さを求め続けるうちに、「もっと減らしたほうが身軽になれるはず」という考えが加速していった。
香水はいらない、柔軟剤もいらない。快適に暮らすための「手段」だったはずの断捨離が、いつしか「目的」にすり替わり、なくても困らないものを片端から排除することが自分のなかの「正義」になっていた。
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【ストイックだった暮らしに生まれた、やわらかな変化】
